長い間、職員室の飲料提供機でコーヒーをいただいていたが、こういうところのコーヒーは、薄いというか、味気ないというか、原液をお湯か冷水かで薄めるという作り方だからだ。
別にまあ、淹れ立てコーヒーがいいとか、多くを期待していたわけでもないから、何年もの間、それでいいと当然のように思っていた。
ところがあるとき、昨年だが、「濃いめ」のボタンがあることに気がついた。
つまり、飲料を選択するときにこのボタンを押せば、「濃いめ」の飲料が出てくるのだ。
気がつかないものだ。
やってみた。
私は「濃いめ」を体験した。
確かに濃い。ような気がする。
どうやって濃くするかというと、原液が注がれる時間が、やや長いというだけなのである。
ともあれ、「濃いめ」のボタンがあることに気づかなかった私は、もうここにはいない。
新しい時代が始まったのだ。
ところで、普通の「水」(「お湯」か「冷水」)を選択したときに、「濃いめ」のボタンを押したら、どうなるだろう。
「濃いめの水」が出てくるだろうか。
残念ながらそうはならないだろう。
「水」は、そのものが原液だからだ。
ところが、「そのもの」が、濃くなっていく液体がある。
蒸溜酒がそうである。
「そのもの」といえば、米麹をもとに、米だけを原料に作られる「泡盛」は、他の蒸留酒と違って、「そのもの」を蒸溜する。
「単式蒸留焼酎」の中でも、仕込みは1回だけの全麹仕込みで作られる「泡盛」こそ、「そのもの」が濃くなっていく液体なのである。
芋焼酎や麦焼酎や黒糖焼酎のように、芋麦黒糖といった、他のものを、足さないのである。
と、どうやら仕事上の関係で「泡盛」のことに引き寄せて考えやすい、自分がいる。
私という人間に「濃いめ」のボタンがあれば、私は濃い人間になるのだろうか。
試したいとは思わない。
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