午後より稽古。夜は世田谷で年度二回目の劇作家協会戯曲セミナーの講師。『戦争と市民』を中心に。終わって受講生たちと話す。稽古場に戻る。音響操作特訓を終えた内海常葉とあれこれ話す。ウィーン・ルーマニア秘策など。気がつけば深夜二時半。まもなく彼が劇団に来てぴったり十年になる。寒い中、内海は原チャリで、自分は自転車を漕いで帰る。数時間後に「座・高円寺」の竣工式でまた顔を合わせることになっているのだが。
続く93年の<ミステリアスナイト>は『リトルマン・リトルトーキョー』。架空の国の「日本人街」での事件を追う。金守珍演出、大西孝洋や現・桟敷童子の東憲司も出ている。新宿梁山泊と合同公演のようだった。ヒロインは故・金久美子。どうしても彼女の長台詞を書きたかった。こうしたホテルでのミステリー物は池袋のメトロポリタンでも岩松了さんと東京乾電池中心のチームでやっていた。最近は聞かないが、やはりバブル時代の産物だったのだろうか。
90年代ほぼ毎年夏、ホテル・センチュリーハイアット<ミステリアスナイト>に関わっていた。お盆枯れ対策で、前夜に<問題篇>、宿泊客は犯人とトリックを当てる。翌朝<解決篇>で真相が明らかに。きちんと「劇」として書いた。92年『レッド・ムーン』はナビゲーター役の谷啓さんに俳優としても頑張って頂いた。谷さん青年期の物語で「ガチョーン」誕生秘話も入れた。彼の記憶にも「赤い月」があった。演出は金守珍。故・江戸川はせをの好演が忘れられない。
大きな月が出ていると、占部。打合せ中だったので聞いただけだったが、これまで見た月で一番とか街を覆わんばかりとか、数分で小さくなってしまったとか、後々まで興奮している。消えた後に現場検証したが、商店街はかなり遠くまであり遠近法的に道幅にすっぽり入るという印象の相対性については納得。尋ねてみるとやはり月は赤かったという。別役実作『象』には「アカイツキ」と繰返し叫びながら走っている人物のことが出てくるし、後に『アカイツキ』という戯曲も書かれている。私も昔『レッド・ムーン』という推理劇を書いた。
正月気分じゃなくなったかと思ったらまた連休の世間。不況と暗い情勢だけにのどかではない。それにしても国民に金をばらまくかどうかで揉めている国なんて異常である。午後は池袋で劇団外の打合せ。いろいろたいへんである。映画『アフタースクール』。よくできているだけに、ちょっとした不明瞭な部分が引っかかってもったいない。
寒くなってきた。仕事をじわじわと消化……のはずが、なかなか進まない。溜まっているあれこれのことをそれぞれ少しずつやっているとなかなか追いつかない。夜は俳優座『村岡伊平次伝』。俳優座の人間だから当たり前のようだがたまたまこの日観に来たらしい田中壮太郎がいる。彼と私の外観を「似ている」という人がいるのだが、壮太郎によるとそう指摘する人は既に十人を下らないらしい。
寒い。欧州は零下三十度と聞く。占部誕生日。……稽古終わって新宿で松本修氏と。相談もあったが話は脱線しがち。サシでお話は久しぶりで、あっという間に時が経つ。考えてみれば四半世紀のお付き合い。直接一緒に仕事をしたのは1994年MODE『私が子どもだったころ 瀬戸内版』くらいなのだが。1987年燐光群『光文63年の表具師幸吉』を「とても面白かった」とのこと。そういうことはその時に言っていただけるとありがたい。
稽古を六時過ぎに終えて新年会。基本は昨年お仕事した方々ばかり。急遽決まったので連絡も遅れたが結構大勢の方が来て下さる。竹下景子さんが「今年は忘年会に呼ばれないのかと思ったら新年会になったのね」。そうなのです。帰京が年末ぎりぎりだったので。前評判の高い渡辺美佐子さんのドラマ『お買い物』は2月14日NHKで放映されるとのこと。イタリア語翻訳家アレッサンドロがバーボン党のお客のためにわざわざ買いに行ってくれる。十時過ぎ中座して担当メンバーと一緒にウィーンと国際電話。とにかく少しずつ物事は進んでいる。
ふだんと違う経路で稽古場へ。途中、何年ぶりかの食堂。おやじさんが話しかけてくる。この二十年で通算五度も来ていないはずだし、顔を知らない。他の人と間違えているか確かめるのも面倒で正月労働について適当な相槌。L字型カウンター斜め前に、糖尿病のため強い意志で三十キロ痩せたと話す常連感漂うお客が来て、おやじさんはそちらに移る。彼は天ぷら定食を「丼つゆ」でと注文。天つゆより糖分は多いはずだが。連れの女性は本当は天丼を食べたいらしいが彼の耳には届いていない。不条理劇のような正午。
稽古場まで自転車で通うのは気分がいい。稽古は早めに終わったがあれこれしているうちに九時を回る。清水弥生が西山水木さんの集団anに書き下ろした新作の初稿が初日三ヶ月前にしてメールで送られてくる。早いのはえらい。ちょうど清水の最近お薦めの映画という『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』をDVDで借りて観る。この監督は最初の『ブギーナイツ』をなかなか越えられない感じだ。
流山児★事務所に『ユーリンタウン』チラシ用の文をやっと送る。流山児氏は今日初めて「座・高円寺」に下見に行くとか。午前中、稽古用セット組み立てやら海外対応やら。午後一時から読み合わせ中心の『屋根裏』久しぶりの稽古。占部房子以外はみんな何度目かの芝居なのだが、新鮮に丁寧にやらなくてはならない。稽古中に翌日出る朝日新聞のピンター氏追悼記事のゲラ最終チェック。シリーズの追悼枠の予定から朝刊文化欄に大きく載ることに変わった。
平日でないのに仕事始めも多い業界。自分も動き出す。しかし、喪中の相手にそれを忘れ電話し留守番だったのでついつい年賀の言葉を言ってしまい、気づいて慌てて打ち消したが、それも全部録音の中の出来事なのだから、うーむ。元旦に斎藤家でも話題になった、電話の機能充実とか、Suicaのせいで交通費の細かい計算をしなくなるとか、人間の瞬間判断力や細やかさが失われている感じについて、思う。……月末の『屋根裏』ウィーン公演情報(http://www.ensembletheater.at/start.asp)。かの街にお知り合いがいらしたら、ぜひお薦め下さい。
三が日という言葉も考えてみると不思議だ。新年の三日間だけは休んでいいと言われているようなものだ。そんなこと言われたっていろいろすることはあるけどまわりから情報が入ってこないぶん確かにゆったりしているかな。で、散歩。昔住んでた永福町のアパート前を通る。相変わらずおんぼろだが錆びてぐらぐらに傾いてた外階段はさすがにリニューアルされてる。私がいる間に他の部屋はみんな中国人が住むようになったが今はどうなのだろう。
元旦は、日付が変わってすぐ八幡神社へ初詣。夕方から翻訳兼演出家二名を伴い斎藤憐家へお年始。その後、最寄り駅に開いている店がなかったので、うち一名とご近所の俳優が我が家へ。二日はピンターを読み返そうとするが時間切れ。夕方、吉祥寺まで小一時間歩き、北村想氏原作の映画『K-20 怪人二十面相伝』。うーん。
おめでたいかどうかはお任せ。こちとら、おめでたいのは一年中なので。元旦だけれど仕事。昨日かなり久しぶりに散髪したので頭がすーすーする。正月らしいことも少しはさせていただきたい。例えば昨日、丑年の飾り物を買おうとしたら爪楊枝立てしかなく、しかも時期物だけに捨て値の20円。なかなかいいよ。……大晦日に続き元旦もご挨拶モードで先回りさせて頂きました。『ローゼ・ベルント』初日に始めたブログも半年経過。それもめでたいのかどうかわからんけれどね。