未婚の親に対する「寡婦控除」不適用の問題を描いた場面がある、全国ツアー上演中の演劇版『憲法くん』も含めた改革世論の高まりが、政府を動かした。
未婚のひとり親に対する支援をめぐって、対象外となっていた寡婦控除の適用拡大について、自民党は「未婚の出産を助長しかねない」として反対していた。これがついに崩れた。未婚のひとり親についても、配偶者と死別・離婚したひとり親の税負担を軽くする「寡婦(寡夫)控除」の対象とすることが、決まったのだ。
時事通信によると、自民、公明両党の税制調査会は10日、2020年度税制改正の焦点の一つとなっている未婚のひとり親支援について、配偶者と死別・離婚したひとり親の税負担を軽くする「寡婦(寡夫)控除」の対象とし、所得税などを軽減することで合意した。年間所得500万円以下の世帯が対象となる。本12日に決定する20年度与党税制改正大綱に盛り込まれたはずである。
自民は当初、寡婦控除とは別の新制度を設けることを検討していたが、根負けしたようだ。ただ、住民票で事実婚であることを届け出ている場合は対象外となる。
松元ヒロさん原作の演劇版『憲法くん』の中で、演劇版オリジナルとして新たに付け加えられた部分に、 この題材を真正面から捉えた場面がある。市の職員と、寡婦控除の対象にしてもらうことを求める未婚の母の対決、そこに憲法くんが現れる、というシーンだ。悲痛なたたかいである。
寡婦控除の対象になるのは、民法上婚姻関係があった者だけという理不尽を追及し、公営住宅の家賃や保育料保険料、いろんな住民サービスで所得の基礎計算に使われる寡婦控除額の算定が、死活問題になる層があることも描かれる。来年四月から始まる給付型奨学金も、給付額は住民税額によって決まる仕組みになっているため、同じ年収のひとり親家庭でも寡婦控除を受けてなかったら、給付額は税額に反比例するから、少なくなり、年間54万円の差が出るケースがあることも、指摘される。ドイツでは子どもの人権が第一で、ひとり者の子どもはむしろ手厚く保護される。だから産むことを迷わない、ということも言及される。
この場面では、憲法第13条、 第14条、第27条について話されている。なぜ27条?と思われる向きには、とくに御覧いただきたく思う。展開の中で話題は、労働者の誇りというテーマにも、なってくるのだ。真摯に働く非正規労働者たちから見て、ろくすっぽ仕事をしない国会議員たちの姿はどううつっているのか、ということでもある。
10分に満たないシーンだが、その中にちょっとしたどんでん返しが二段階にわたってあり、短編劇の作劇の例として、戯曲を書こうとしている人にも、きっと参考になるはずである。
私たちが演劇で描いたことが現実に反映されることは、これまでも、あった。初演はもう三十一年前になる『OFFSIDE / 危険な話』では、再演の翌年に、私たちが推理し克明に描いたとおり、中曽根政権時代の自民党本部放火事件の被告とされた藤井高弘さんの無実が証明され、釈放された。同じように冤罪を主張してきた『ブラインド・タッチ』の星野文昭さんは、新たに無実を証明する機会を与えられないまま、今年、獄中で亡くなってしまったが……。少なくとも、彼のたたかいを伝える努力は、した。
二十代の私は、冤罪弁護士の異名をとった後藤昌次郎さんたちと「陪審裁判を考える会」などでご一緒していた。私が岸田國士戯曲賞を受賞したとき、後藤先生が授賞式でトレードマークの草笛を披露してくれたことは、忘れられない。そういう時代だったし、それは今も続いているのだと思う。現実は、「演劇の素材」ではない。演劇も又、「私たちの現実」そのものであり、一つのジャーナリズムである。決して社会に対して無力ではない。そうした双方向性こそが演劇の特質であるとさえ、いえる。
写真 左・木下祐子、右・樋尾麻衣子。撮影・姫田蘭。
演劇版『憲法くん』は、これから年内、伊丹、岡山、名古屋でも公演します。
年の瀬のせわしい季節ではありますが、お近くの方、ぜひ、お越しください。
[ 伊 丹 ]12月13日(金)〜15日(日)AI・HALL
[ 岡 山 ]12月17日(火)岡山市立市民文化ホール
[名古屋]12月19日(木)・20日(金)愛知県芸術劇場
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