これは したり ~笹木 砂希~

ユニークであることが、ワタシのステイタス

追いはぎと押し売り

2011年09月15日 20時40分30秒 | エッセイ
 中学の理科には、「塩化銅水溶液の電気分解」という単元がある。
 水溶液に、プラスとマイナスの電極を入れると、陽イオンの銅はマイナス極に移動し、陰イオンの塩素はプラス極に移動する。その結果、マイナス極には銅が付着し、プラス極からは塩素が発生するのだ。
 夕食の話題は、その実験の話だったはずなのだが……。
「お母さん、おいはぎって何?」
「知ってるけど、何でいきなり」
「だって、理科の先生が、プラス極は陰イオンの塩素から電子を奪うから、『おいはぎ』と覚えなさいって言ったんだよ」
 理科の先生は、50代のベテランである。今の生徒に通じる言葉ではないと、わからないのだろうか。
「『おいはぎ』っていうのはね、旅びとや通行人を脅して持ち物や着物を盗む、大昔の人のことをいうんだよ」
「へー、泥棒か」
 本人は、わかりやすく教えているつもりでも、生徒たちにはピンと来ないたとえである。思わず苦笑したが、さらに続きがあった。
「あとね、マイナス極は陽イオンの銅に電子を押し付けるから、『おしうり』と覚えなさいとも言われたんだけど、おしうりって何?」
「……」
 先生、早く気づいてよ~!

 そういえば、前の学校でも似たようなケースがあった。
 病弱ネタを売りにしていた国語の先生は、自己紹介のたびに「私は子供の頃から体が弱かったので、クララと呼ばれていました」と言っていた。20代のときは、生徒も『アルプスの少女ハイジ』を思い浮かべて、うなずきながら聞いていた。しかし、30代になってからは、生徒が怪訝な顔をするようになったという。そして、質問が飛んできた。
「先生、クララって何ですか。薬の名前?」
 彼女は、一定年齢以下には通じないのだと悟り、クララを引退させた。
 ちょっと淋しいことだ。

 先日、定期テストが終わり、娘がしょんぼりして帰ってきた。
「理科は、思ったよりできなかった……」
 追いはぎと押し売りは完璧におぼえたようだが、肝心のところが頭から消えてしまったのだ。
 余計なものをおぼえさせるから……。



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コメント (14)
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