しましましっぽ

読んだ本の簡単な粗筋と感想のブログです。

「神の名のもとに」 メアリー・ウィリス・ウォーカー 

2008年02月10日 | 読書
テキサス州ジェズリール、2月24日の朝。
スクール・バスがサミュエル・モーディカイ(本名・ダニー・レイ・グライムズ)を教祖とする「ジェズリールの家」というカルト教団にハイジャックされる。
バスは教団のコミュニティーに向かう。
拉致された6歳から12歳の11人の子どもたちと、運転手のウォルター・デミングは納屋の下に掘った地下に閉じ込められる。
その子どもたちのもとにモーディカイは毎日、説教をしに降りて来て、50日後にこの世の終わりが来ると話す。
ウォルター・デミングはベトナムからの帰還兵だった。
デミングは子どもたちを落ち着かせるために自分で作ったお話をしていた。
人質になった、11歳の少女、キンバリー・バセットの母親、セルマ・バセットはモーディカイの説得の為、
かつてモーディカイにインタビューをしたことのある事件記者、モリー・ケイツにモーディカイの生い立ちの調査を頼む。
そして、すでに監禁されて46日がたっていた。


とても面白かった。
事件解決にあたるFBIはほとんど何も出来なく、話の中心はモリーとウォルター・デミング。
特にデミングの事と、デミングが地下で子どもたちとの交流が心に残る。
デミングが子どもたちに語った物語、ヒメコンドルのジャクソンビルとアルマジロのロペスの物語は、
ベトナムでの自分と自分のせいで両足を失ったとジェイクの、体験に基づいたものだった。
子どもと接することもなかった、デミング。
ベトナム戦争で傷ついて、ひっそり暮らしていこうとしていたのに、巻き込まれてしまった。
しかし、子どもたちを救うため、自分が唯一の大人だから、なんとかしなくてはと思いそれが実際に出来るのは、人間としてきちんと成長して成熟していたからだろう。
生きる為に戦うすべも知っていて、行動も起こせる勇気。
対象的に辛いことを復讐に向けて反社会的になってしまったダニー。
神も何も信じられなくなっているデミングと、ある意味、狂信的なダニー。
自分のためだけに生きていたダニーが成長できていなかったのは何故だろう。
デミングの子ども時代は語られていないが、育った環境なのだろうか。
正義を求めてベトナム戦争に行ったのだから。それが間違いだったと気が付ける人間でもあった。
もと警察犬のコパーの話も面白かった。
まるで映画を見ているように映像が鮮明に浮かぶ、浮かびやすいもの物語だった。


デミングが暗号に使った詩の全文。


『光の下、もっと下
草と土の下
カブトムシの窖(あなぐら)の下
クローバーの根の下

腕が届くより遠く
それが巨人の腕でも
日光が届くより遠く
それが一年分の光でも

光の向こう、もっと向こう
鳥が描く弧の向こう
彗星の煙突の向こう
腕尺の頭の向こう

推測(ゲス)が走れるより遠く
謎が駆けるより遠く
ああ、この距離の円盤ゆえに
わたしたちと死者のあいだは!』
エミリー・ディキンソン詩集 作品番号949
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