「変な人」が変に見えるのは「論理的」であるから 森下卓九段 編

2018年06月15日 | コラム
 「変な人は論理的である」
 
 
 というと、たいていの人は
 
 
 「えー、そんなことないよ。変な人は考え方が論理的じゃないから変なんでしょ」
 
 
 そう返してくるものだが、これがそうではない。
 
 そこで前回(→こちら)は、中島らもさん書くところの
 
 
 「論理的帰結により髪型を《ザビエル》にしたサラリーマン」
 
 
 を紹介したが、今回は論理的思考といえばこの職業であろう、将棋のプロ棋士から。
 
 森下卓九段は、典型的な「マジメすぎて変」な人である。
 
 A級10期タイトル戦登場6回棋戦優勝8回という、押しも押されぬ一流棋士である森下先生だが、一緒にお酒を飲んだ女の子に、後日丁寧なお礼状とともに
 
 「一歩千金
 
 と揮毫した色紙を送ったなど、この手のシビれるエピソードに事欠かない。
 
 中でも最も奇抜なエピソードといえばやはり「森下全裸トマト事件」。
 
 森下九段の好物はトマトである。
 
 それもサラダにしたり、塩や砂糖をつけたりなどという軟弱な食し方ではない。九州男児の森下九段は、腰に手を当ててそのまま丸かぶりが好みだ。
 
 が、そんな豪快な先生だが、ここにひとつ悩みがあった。
 
 それは、トマトのである。
 
 がぶりとトマトに食らいつく。とすると、かじり口から、トマトの赤い汁が種とともに飛び散ってを汚すのである。
 
 キレイ好きの森下先生には、これが悲しい。
 
 ここで長考に沈んだ。トマトは食べたい。しかし、服が汚れるのはイヤだ。どうすればいいのか。
 
 そこで好手が思い浮かんだ。
 
 トマトを食べると、汁で服がよごれる。とすれば最初からなど着なければいいのではないか!
 
 これぞ逆転の発想、コロンブスの卵。
 
 たしかにそうすれば、服はよごれない。さっそく先生、トマトを冷蔵庫から取り出すと、着ている服を脱ぎ払って全裸になった。
 
 準備完了。さあ、いざこの赤い果肉を丸かぶらん! 
 
 と、大きく頭を振りかぶったところで、再びあることに気がついた。
 
 このまま食いついても、たしかに服は汚れることはないだろう。
 
 だがしかし、汁は服の代わり今度はに飛び散り、部屋に敷き詰めたじゅうたんをよごしてしまうではないか!
 
 キレイ好きの森下先生、これが悲しい。
 
 ここで長考に沈んだ。トマトは食べたい。でも床をよごすのはイヤだ。どうすればいいのか。
 
 そこで好手が思い浮かんだ。
 
 トマトを食べると床がよごれる。とすれば、最初から床がよごれてもいい場所で食べればいいではないか!
 
 なるほど、これぞユリイカ、コペルニクス的転回。では下がよごれてもいい場所とはどこか。トマト片手に先生は走った。
 
 そこは風呂場だ。
 
 浴室なら、汁が飛び散って体や床を汚したところで、シャワーでしゃーっとすすいでしまえばいいことだ。
 
 さすが天才は発想が違う、いろんな意味で。
 
 かくして、森下卓九段は服も床もよごすことなく、トマトの丸かじりを大いに堪能した。
 
 このエピソードのすごいところは、森下九段の思考が、徹頭徹尾論理的であるということ。
 
 
 「キレイ好きが、トマトを丸かじりするにはどうすればいいか」
 
 
 という命題に、ほぼ最適解に近いものをみちびき出している。
 
 で、その結果あらわれたのが、
 
 
 「浴室で全裸になって、腰に手を当てトマトを丸かじりする男」
 
 
 
 もう、森下先生ったら変な人!
 
 
 (空手番長編に続く→こちら
 
 
 
 
 
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