SNSの失敗は、おそろしいものがある。
先日、タレントのフワちゃんが、不適切なメッセージをXで発信してしまい炎上。
ラジオやCM、果ては教科書に載る予定だったのが取り消しになったり(教科書ってすごいね)、大変な事態になってしまった。
令和に猛威を振るう「キャンセルカルチャー」のすさまじさであり、これには、
「あの程度のことで、ここまで大きなものを失うのはおかしい」
「いや、あんなヒドイ内容をネットで発信することの方が異常」
などなど賛否両論あろうが、「正しいこと」というのは良くも悪くもというか、残念なことに「論理」や「正義」ではなく「時代」が勝手に決めるものではある。
その是非はともかく(そもそも「正しいこと」なんて存在しないしな)、それに乗って人気者になったフワちゃんが、同じものに足を取られたのは皮肉としか言いようがない。
これは有名人だけでなく、われわれのような素人も他人事ではなく、今回はそういうお話。
ヤングのころ家でテレビを見ていると、携帯にメール(まだガラケーの時代)が届いた。
送り主は友人トヨツ君。
こんな遅くに、なんぞ用かいなと読んでみると、その内容というのが、
「愛してるよ。最近いそしくてゴメンね。明日時間があるとき電話する。大好きちゅきちゅき、100万回キスをチュッチュチュ~ I love you 」
………………。
いきなり愛を語られてしまった。
トヨツ君とはつきあいも長いが、まさか彼がそのような感情を持っているとは思いもしなかった。
別に、同性同士が愛を語ることにおいては偏見はない。愛の形は千差万別である。
だが、いかんせん私自身は完全無欠にノンケである。
やはり、つきあうには男ではなくて女、できれば元欅坂46の長濱ねるさんでなくては困るのだ。
友を傷つけるのは本意ではないが、この想いは受け入れられないか……。
などと煩悶するまでもなかろう、これはどうみても誤爆である。
トヨツ君といえば天下無敵の女好き、バリバリのプレイボーイ。
彼女だか、それともナンパで絶賛口説き中だか知らないが、女子に送るものを私のところに間違って送信してしまったのだ。阿呆だねえ。
恋愛関係のやり取りというのは、たいてい正視できないような痛いものと相場が決まっているが、これもまたなかなかのものである。
「大好きちゅきちゅき、100万回キスをチュッチュチュ~ I love you 」
とか、ようやりまっせ、ホンマ。
ようわからんけど、魯迅の『狂人日記』とか、こんな内容ちやうの?
部外者のとっては燃えないゴミも同然だが、まあ送られてきたものは真摯に受けとめる所存である。
へー、コイツ女にはこんな文体でメッセージ送ってるんや。
ウッシッシ、こらええわ。今度みんなに見せて笑いもんにしたろ。
悪いヤツがいたもんであるが、これぞ正真正銘の自業自得。なははは、トヨツ君敗れたり!
友に対して思わぬ切り札を手に入れた私は、さっそく、
「愛のこもったメールありがとう。僕も早く会いたいよ」
そう返事してやると、にわかには意味がわからなかったのか、すぐに、
「はあ? なにいうてるねん、頭おかしなったか?」
間もなく、ようやっと状況が飲みこめたのであろう。おそらくは真っ青な顔をしながら返信してきた。
「すまん。さっきのは、なかったことにして!」
こちらは静かにうなずくと、あたかも不治の病で、余命幾ばくもない恋人の手を取って言うかのように、
「いや、きっとキミのことは忘れない」
おそらく友は、声にならぬ雄叫びをあげながら、ケータイを床にたたきつけていたであろう。おお、ゆかいゆかい。
それからしばらく、私はすこぶる機嫌のよい日々を過ごした。
どんなイヤなことがあっても、「チュッチュチュ~」でゲラゲラ笑えば心は日本晴れであるである。「人の不幸は蜜の味」とはよく言ったものだ。
と、ここで終われば、この話はハッピーエンド(?)であるが、そうはならないのが人生の妙味である。
それから一月ほどして、ある飲み会が開かれた。
当然、私はトヨツ君のメッセージを持参し、「平成の爆笑王」として君臨するはずだったが、なかなかどうして。
これが、そうはうまくいかないのは、まあだいたいが、皆様のご想像通りである。
(続く)