角というの使いでのある駒である。
射程距離が長く、
「遠見の角に好手あり」
「飛車のタテ利きは防ぎやすいが、角のにらみは防ぎにくい」
と言われる通り、好所に据えると盤面を制圧する威力を発揮することがある。
反面、接近戦に弱いところがあり、玉頭戦の競り合いや守備に使うとなると「頭が丸い」ため活躍の場を失いがちなのだ。
そんな特長がハッキリしている駒なので、
「ハッとする妙手や好手は角を使う手が多い」
という説もあり、もっとも有名なのが江戸時代に「棋聖」と称された天野宗歩の「遠見の角」であろう。
好手かどうかは正直なところ微妙で、『将棋世界』の人気コーナー「イメージと読みの将棋観」でも苦しまぎれではないかといわれていたが、宗歩はこの後うまくさばいて▲63角成と成りこむことに成功し勝利。
なにより、この「▲18角」と放った形が理屈抜きで美しさを喚起させ「絵的に綺麗」なところも、この角の価値を高めているかもしれない。
ということで、今回はそんな角の好手を観ていただきたい。
1989年の新人王戦。
佐藤康光五段と中川大輔四段の一戦。
先手の中川が序盤で飛車角交換になる「升田式棒銀」で先行し、むかえたこの局面。
まだ中盤の入口くらいだが、この△64銀が軽率だったようで、なんとすでに後手が倒れている。
次の一手で将棋はおしまいである。
▲18角打で、升田幸三風に言えば「オワ」。
この二枚角のランチャーで、おそろしいことに後手は△63の地点が受からない。
△52玉には、▲83銀の強烈な左フックが決まる。
△同金に▲63角成で崩壊。
▲83銀に△62金と逃げても、▲74銀成でやはり△63の地点の数が足りない。
以下、佐藤も懸命にねばるが、中川は落ち着いた指しまわしで圧勝。
「遠見の角」の破壊力と、盲点になりやすいところがよく出た将棋といえる。
続けてもうひとつ。今度はめずらしい、角を受けに使う形。
2009年のB級1組順位戦。
渡辺明竜王と久保利明棋王の一戦。
渡辺が5勝2敗、久保が6連勝というA級をかけた直接対決は久保のゴキゲン中飛車から双方の端で戦いとなり、むかえたこの局面。
▲19歩に△28竜とかわしたところ。
一目は▲94歩と取りこみたいが、その瞬間に△47馬とされると後手玉が1手スキでないため先手が負ける。
なんとか1手の余裕を得たい渡辺だが、ここでカッコイイ手があった。
▲17角と、ここに捨てるのが攻防の速度を逆転させる妙手。
△同竜と取るしかないが、そこで▲94歩とする。
久保は△95歩と打って▲同香に△84角とねばるが、▲93歩成、△同桂、▲同香成、△同玉に▲73歩と打つのが、確実にせまる手で決め手になった。
競争相手を下した渡辺はその勢いで、この期初めてのA級昇級を果たすことになるのである。
(羽生善治によるお手本のような遠見の角はこちら)
(真部一男と大内延介による幻の角はこちら)
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