前回の続き。
「それ、おまえの世界すぎるってぇ!」
アダルトDVDを観て、思わずそうツッコミを入れたのはMー1決勝進出も決めたお笑いコンビ、ママタルトのひわらさんだった。
プロのお笑い芸人も思わずあきれる、その動画の設定というのが、
「はじめて彼女ができたから、それにそなえて、幼なじみの女の子にセックスの練習をさせてもらう」
現実では絶対に通ることのない危険牌だが、アダルトの業界はとんでもない設定の作品があまたあるもので、ハヤカワSF文庫も顔負けな奇想が飛び交っているものだ。
すげーなー、こんなんオレやったらよー言わんで、と彼女も幼なじみの美少女もいないのに思ったものだが、そこで不意に思い出したわけだ。
あれ? これと同じ話、聞いたことあるで。
それが高校時代のクラスメートであるナガオ君のエピソードだった。
時はさかのぼって、私がまだ浪人生だったころ、風の噂で彼が、
「はじめて、女性と関係を持ったらしい」
と聞いたのだ
ナガオ君はモテ男というほどではないが、そこそこ流行やオシャレに気を使っている、いわゆる「1.5軍」くらいの男子だったので、そのこと自体は特に不思議ではない。
ただ、その過程というのが、なかなか飛ばしていて、たまたま彼と何人かで、飲みに行く機会がった際に問うてみると、
「うん、それが、相手はワサコいうて、中学時代からの友達やねん」
ここで、われわれは「おー」となる。
地元の幼なじみ、ええやん。マンガみたい。
で、それはどっちが言い出したんや?
「それは、むこうからやねん」
再び「おー」である。おいおい、とんだ色男やないか。
中学生からの知り合いで、2人がともに成長したときフト自覚する恋心。
でもって、女子の方から「好きです」「つきあってください」で、そこから結ばれると。
ドラマやがな、青春やがな。うらやましいねえ、オレもそんなステキな恋をしてみたいで。
なんて、ボンクラ男子たちは女子会のごとく「恋バナ」で盛り上がっていたのだが、本来は「凱旋の英雄万歳」であるはずのナガオ君は、首をかしげながら、
「いや、そういうんちゃうねんな」
そういうんちゃうって、どうちゃうねん。幼なじみに告白されて、そのままつきあって、もう心身ともにラブラブなんやろ?
そう肩をつつくと彼は苦笑しながら、
「告白されてないって。つきあってもないんやし」
へ? どういうこと? でもさっきは、「むこうから言ってきた」言うてましたやん。
「そうや。言うてきたんや。いきなり、ラブホテルに行こうって」
ふたたび「へ?」である。
それはなんか……風向きが変わってきたというか、いわゆる、
「なんか……思てたんと、ちょっとちがう……」
という感じではないか。
なになに? どういうこと?
われわれは流れ的に「むこうから言ってきた」=「告白してきた」と思いこんでいた。
なんでも「告白」というのは日本独特の文化らしく、こっちのアニメやマンガの好きな異人さんには「あこがれのシチュエーション」なのだそうだが、そういうことではない。
「むこうから言ってきた」=「ラブホ行こうぜ! と言ってきた」ということなのだ。
そのワサコちゃんいう子も、えらい積極的やな、というか初球がラブホテルって、場合によっては引くけどなあ。下手したら、危険球退場やで。
なんて、場がザワザワしたところにナガオ君が説明するには、そもそも告白どころか、呼び出されてまずされたことが、
「はじめて彼氏ができた」
という報告だったそうな。
ナガオ君はワサコちゃんと友達であって、別に恋愛感情はなかったから、「あ、そう。よかったね」くらいだったのだが、続けて彼女が言うには、
「だから、一緒にホテル行ってくれへん?」
文がつながってないというか、完全に「だから」という接続詞の使い方を間違っているが、彼女が言うには、
「今度、カレの家に泊まりに行くことになったんやけど、まあ、たぶんそういうことになると思うねん」
まあ、なる可能性は高いでしょうなあ。
「でさあ、そんときにこっちがなんにも知らんウブな女やと恥ずかしいから、一回、アンタで経験しときたいねん」
いかがであろうか。
ひわちゃんが、思わずつっこんだシチュエーションのようというか、今思い出してみたら「まんま」ではないか。
(続く)