前回の続き。
郷田真隆九段と言えば、その実力にもかかわらず、挑戦者決定戦での勝率が悪い。
そこで、実際にどれほど苦戦しているのか数えてみようということで、まず竜王戦挑決は0勝1敗。
名人戦はリーグ戦だからむずかしいが、2度出場しているので2勝0敗。
王位戦は3勝2敗と、ここまではまずまずの成績だが、叡王戦0勝0敗、王座戦は0勝4敗で棋王戦は2勝5敗と下り坂に。
ここまで7勝12敗と負け越しているが、ここからどうなるか。
事務仕事が苦手な私は、もうすべてを投げ出してメイプルタウンあたりに亡命したくなっているが、果たして完走できるのか?
次も、棋王戦に続いて獲得経験のある王将戦。
まずはずせないのが、1994年の第44期王将戦プレーオフで、このとき挑戦権をかけて戦ったのが羽生善治六冠王。
このとき羽生は「七冠王ロード」のクライマックスへ向かってひた走っており、郷田はそのストッパーの役を担うことになったが、残念ながら敗れてしまった。
その後、2002年第52期にもプレーオフに進出するが、羽生にまたもやられてしまう。
その後は長くプレーオフ進出に縁がなかったが、12年後の2014年第64期王将戦で七番勝負に進出。
このときも、リーグ戦で独走態勢に入りながら、勝てばすんなり挑戦というところで2つ星を落とし、羽生に追いつかれるという、まさかの失速。
流れ的にプレーオフは勝てないと思われたが、そこをしっかり立て直したのはさすが。
本番の七番勝負でも、充実著しかった渡辺明王将からフルセットの末奪取し、初の王将獲得。
図は第7局の序盤戦。
横歩取りから、後手の渡辺が△53角と打ったところ。
先手が▲12歩と攻めて、歩がなくなったタイミングで8筋をねらうが、郷田は好きにすればと▲11歩成。
堂々と歩を成られて、これで行けなければなにをやってるかわからないと、△86角と切って▲同歩、△同飛。
力強く踏みこんだはいいが、こうなってみると後手の8筋突破が受からない形。
歩があれば▲87歩で大優勢だが、もちろん渡辺はそれがないことを見越しての攻撃だ。
このままでは竜を作られるのは必至。かといって、頭の丸い角しかないのでは受けもむずかしい。
先手が困っているようだが、郷田は平然と次の手を指した。
▲87角と打つのが、形のこだわらない郷田の腕力。
一見、突破されたように見えるが、2枚の角がうまく連携して一気にはつぶれないのだ。
以下、△85飛、▲66角、△65桂、▲21と、△77銀、▲59玉、△66銀成、▲同歩、△39角、▲38飛、△57角成、▲54桂で激戦。
スゴイ形だが、本格派の2人が、こんなおかしな局面を戦っているのはそれだけで熱局の証拠であろう。
そこから少し進んで、この局面。
先手の攻めもカサにかかっているが、後手から△57歩のビンタも玉頭だけに痛烈。
後手はまだ歩しか持駒がないが、先手も攻めるとなると銀とか桂を渡すことになりそうだし、▲87の角も質駒になっている。
うまく対処しないと、裸玉に近いだけに一撃で仕留められる危惧もあるが、次の手が郷田らしい一着だった。
▲47金と上がるのが、なにも恐れない勇者の一手。
一見「金はナナメに誘え」で守備力が激減しているようだが、そこをあえて▲58の地点を開ける▲47金が、郷田流の見せ場。
△62歩、▲同桂成、△44歩、▲54歩、△62銀、▲同成銀、△43金上に▲56金のショルダータックルが決め手になった。
この手を見越しての▲47金だったのだ。
△67馬に、▲55桂と上部から押しつぶして先手勝勢。
第1局の画期的新手に、第6局の大逆転と並べて、実にドラマチックなシリーズであった。
翌年の第65期王将戦でも、羽生善治の挑戦を4勝2敗で蹴散らしてタイトル戦初防衛。
こう見ると、2010年代前半は王将と棋王を獲得するなど、円熟期とも言っていい内容。かなり充実していたようだ。
☆王将リーグ・プレーオフ 1勝2敗(獲得2)
(続く)