2019年。第4期叡王戦の挑戦者決定戦第1局。
永瀬拓矢七段と菅井竜也七段の一戦。
両者ともただ強いというだけでなく、「容易には倒れない」という強靭な足腰が持ち味。
そんな2人が戦えば熱戦になるのは約束されたようなもので、この将棋も相穴熊からねじり合いが展開される。
むかえたこの局面。
永瀬が序盤でリードを奪い、5枚穴熊(飛車までくっついて実質6枚!)の堅陣も構築して押し切るかと思われたが、菅井も端をからめて実戦的に勝負勝負とせまる。
△47歩成と入られ、玉形の差が響いてきそうな局面だが、ここで菅井が力強い手を披露する。
▲18飛と打つのが、根性の自陣飛車。
玉のまわりの空間を埋めながら、端に火力を足す攻防手。
次に▲13銀と打ちこめば、一気に攻守所を変えるかもしれない破壊力だ。
永瀬は△14香、▲同香、△13歩から1筋を清算しにかかるが、▲同香成、△同銀に▲12歩とたたくのがうるさい。
△同玉に▲17香と、またもや足し算でド迫力だ。
これで後手陣の方が王手がかかりやすく、嫌な感じになっている。
形勢は不利ながら菅井の底力が発揮された展開だ。
結果は永瀬がねじり合いを制して勝ち。
続いては2018年、第31期竜王戦の第1局。
羽生善治竜王と広瀬章人八段の一戦。
角換わり腰掛け銀の最新形から、羽生が果敢にしかける。
この戦型らしい、先手からの細かいうえにギリギリの攻めを、広瀬も形が乱されながらもなんとか対処し、反撃に出る。
△35桂も相当きびしいが、後手陣も丸裸で、手持ちの飛車もあるし一気に攻めこみたくなるところ。
だが羽生の眼は、そんな平凡なところにはとらわれないのである。
▲29飛と打つのが、見た瞬間からして、いかにも好感触の一着。
飛車を持って後手陣を見れば、金取りの▲31飛に手がのびそうだが、そこを攻防に利く自陣飛車。
これには挑戦者の広瀬も、思わず絶賛。
攻防の要駒である後手の馬にアタックをかけながら、飛車の打ちこみを消し、さらにはどこかで▲23飛成と飛びこむ筋もある。
縦横ともに出力100、いや120%の使い方。
こんな見事な起用法をされた日には、飛車自身もよろこんでいるのではないか。エネルギーの放出量がハンパではない。
うーむ、なんだかパワーアップパネルで、最強装備をそろえたボンバーマンみたいだ。
急がない余裕と、盤面を大きく使う視野の広さで、いかにも羽生らしい手といっていいだろう。
結果も羽生が快勝。
(羽生による攻めの自陣飛車はこちら)
(佐藤康光による自陣飛車と自陣角のツープラトンはこちら)
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