この自陣飛車がすごい! 永瀬拓矢vs菅井竜也 叡王戦2019 羽生善治vs広瀬章人 竜王戦2018

2024年04月27日 | 将棋・好手 妙手
 「自陣飛車」というのは上級者のワザっぽい。
 
 将棋において飛車という駒は最大の攻撃力があるため、ふつうは敵陣で、できればになって活躍させたいもの。
 
 それを、あえて自分の陣地に打って使うというのは、苦しまぎれでなければ、よほど成算がないと選べないもので、いかにも玄人の手という感じがするではないか。
 
 そこで今回は、自陣飛車の好手を2つ紹介したい。
 
 

 2019年。第4期叡王戦挑戦者決定戦第1局。

 永瀬拓矢七段菅井竜也七段の一戦。

 両者ともただ強いというだけでなく、「容易には倒れない」という強靭な足腰が持ち味。

 そんな2人が戦えば熱戦になるのは約束されたようなもので、この将棋も相穴熊からねじり合いが展開される。

 むかえたこの局面。

 

 

 

 

 永瀬が序盤でリードを奪い、5枚穴熊(飛車までくっついて実質6枚!)の堅陣も構築して押し切るかと思われたが、菅井もをからめて実戦的に勝負勝負とせまる。

 

 

 

 

 △47歩成と入られ、玉形の差が響いてきそうな局面だが、ここで菅井が力強い手を披露する。

 

 

 

 

 

 

 

 ▲18飛と打つのが、根性の自陣飛車。

 玉のまわりの空間を埋めながら、端に火力を足す攻防手。

 次に▲13銀と打ちこめば、一気に攻守所を変えるかもしれない破壊力だ。

 永瀬は△14香▲同香△13歩から1筋を清算しにかかるが、▲同香成△同銀▲12歩とたたくのがうるさい。

 △同玉▲17香と、またもや足し算でド迫力だ。

 

 

 

 

 これで後手陣の方が王手がかかりやすく、嫌な感じになっている。

 形勢は不利ながら菅井の底力が発揮された展開だ。

 結果は永瀬がねじり合いを制して勝ち。

 

 


 続いては2018年、第31期竜王戦第1局

 羽生善治竜王広瀬章人八段の一戦。

 角換わり腰掛け銀の最新形から、羽生が果敢にしかける。

 この戦型らしい、先手からの細かいうえにギリギリの攻めを、広瀬も形が乱されながらもなんとか対処し、反撃に出る。

 

 

 

 △35桂も相当きびしいが、後手陣も丸裸で、手持ちの飛車もあるし一気に攻めこみたくなるところ。

 だが羽生の眼は、そんな平凡なところにはとらわれないのである。

 

 

 

 

 


 ▲29飛と打つのが、見た瞬間からして、いかにも好感触の一着。

 飛車を持って後手陣を見れば、金取りの▲31飛に手がのびそうだが、そこを攻防に利く自陣飛車

 これには挑戦者の広瀬も、思わず絶賛

 攻防の要駒である後手のにアタックをかけながら、飛車の打ちこみを消し、さらにはどこかで▲23飛成と飛びこむ筋もある。

 縦横ともに出力100、いや120%の使い方。

 こんな見事な起用法をされた日には、飛車自身もよろこんでいるのではないか。エネルギーの放出量がハンパではない。

 うーむ、なんだかパワーアップパネルで、最強装備をそろえたボンバーマンみたいだ。

 急がない余裕と、盤面を大きく使う視野の広さで、いかにも羽生らしい手といっていいだろう。

 結果も羽生が快勝。

 


 (羽生による攻めの自陣飛車はこちら

 (佐藤康光による自陣飛車と自陣角のツープラトンはこちら

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