残酷な神が支配する 山崎隆之vs羽生善治 2009年 第57期王座戦 第3局 その2

2024年06月19日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。

 山崎隆之七段が、羽生善治王座(名人・棋聖・王将)に挑戦した2009年、第57期王座戦五番勝負は、羽生2連勝第3局に突入。

 後手の羽生が横歩を取らせると、山崎は自らが考案した新戦法「新山崎流」をぶつけてきた

 まさに両者の想いが合致した「直球勝負」は中盤の難所を迎える。

 

 

 

 羽生が▲23歩のタタキに△33銀と、桂馬の利きに逃げる工夫を見せたが、山崎も▲85飛と好手で対応。
 
 このあたり、両者とも好感触で指し進めているようだが、ここで次の手がまたも驚嘆を誘った。


 
 
 
 
 
 △44銀と上がったのが、控室の検討陣も再度ビックリの新手
 
 なんでも、この対局の5日前研究会△33銀までは検討されていて、羽生もそれを観戦していたという。
 
 だが、△33銀は指せても、次の△44銀はまったく言及されず、研究会で△33銀を指した飯島栄治六段
 
 


 「脱帽です」



 
 
 先手を持って指していた村山慈明五段
 
 


 「羽生さんらしい柔軟な手。全然、気付きませんでした」



 
  次にきびしいねらいがあるわけでなく、2筋守りもうすくなって、下手すると1手パスのよう。

 そもそも、△33銀と上がったからには、▲33桂不成とさせて桂馬の入手をはかりたいのかと思いきや、そうでもない。

 この真意の見えないフワッとした、フェザータッチが羽生将棋だ。

 こういう手を防衛のかかった一番で、しかも本家本元の山崎隆之に仕掛けてくるのが、なんとも大胆ではないか。
 
 羽生がこのように、あえて相手の土俵で戦おうとするのは、おそらく2つの意図があって、ひとつは谷川浩司九段もう言う「好奇心」。
 
 もうひとつは、本人がどこまで意識してやってるかは不明だが、「つぶし」が入っているはず。
 
 クリエイター型の棋士が必死で研究し、斬新な新手新戦法をぶつけても、下手すると初見でそれに対応し、アッサリと勝ってしまう。
 
 それだけでもショックなのに、羽生はよく次の対局などで、今度はの立場をもって挑んでくることがある。
 
 「自分の得意型」でせまられたうえに、それでもまた負かされ
 
 
 「あれれ~? おかしいなあ~。キミが考えたはずの戦法なのに、なぜかボクの方がうまく使えるみたいだね。なんでだろうね?」
 
 
 コナン君みたいに、盤上でそんなことを言われた日には、私だったら立ち直れません。
 
 羽生からすれば、
 
 
 「指されてみて有力そうだから、一度やってみたかった」
 
 
 という自然な発想かもしれないが(羽生の口から何度もきいたセリフだ)、やられた方はたまったものではない
 
 イジメか! 人の心を傷つけやがって! 一回コンプライアンス研修受けてこい!

 そういえば、かつて真部一男九段が、こんなことを言っていた。

 

 

 「羽生と大山は同じことをやっている」


 

 

 大山康晴十五世名人といえば、その圧倒的強さに加えて、様々な「盤外戦術」も駆使。

 相手に徹底的な「敗北感」を味あわせ、その後の対戦でも力を発揮できないよう精神的ダメージをあたえてきた。

 羽生は大山のようなアクの強いことはやらないが、盤上での無邪気とも言える冷酷さは、恐怖をあたえるという意味では、かつての大名人と変わらないと真部は言う。

 

 

 

「おまえはもう勝てない」「すべての努力はムダになるだけ」ということを「理解」させるのが、大山(羽生)流の戦い方。大山は「確信犯」で羽生は「天然」という説。

 

 

 

 この「新山崎流」の戦いも、山崎からすれば自分のフィールドで戦えるありがたさとともに、
 
 
 「ここを突破されたら」
 
 
 というプレッシャーとも戦わなければならないのだ。
 
 ちなみに、羽生はこの約半年後名人戦三浦弘行八段相手に、今度は先手番側を持って戦い勝っている。

 

 


 
 
 どっちもっても強いんかい!
  
 対戦相手からすれば、ホントに勘弁してほしいところだろう。
 
 羽生の新手にグラついたのか、山崎は早くも敗着を指してしまう。
 
 △44銀▲65桂を活用して自然だが、そこで△29飛

 

 

 

 

 惜しむらくは次の手で、山崎の王座戦は、終わりを告げることとなるのだ。

 

 (続く

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする