シュレディンガーの悪手 米長邦雄vs脇謙二 1992年 第5期竜王戦1組決勝 その2

2021年02月22日 | 将棋・名局

 前回(→こちら)の続き

 1992年竜王戦、ランキング戦1組決勝。

 米長邦雄九段脇謙二七段の一戦は、横歩取り△33桂戦法から大熱戦に。

 

 

 

 図で▲54馬と引いたのが、米長のねらっていた妙手。

 ▲72馬からの詰みと、王様が▲46の地点に逃げたとき、後手から△45金と打つ手を消した「詰めろのがれの詰めろ」になっている。

 あざやかな一手で、米長快勝かに見えたが、ここですごい返し技があった。

 


 

 

 

 △67馬と入るのが、盤上この一手の見事なムーンサルト。

 こうして△45に利かしておけば、先手玉が▲46に逃げたとき、△45金▲同馬に、△同馬と取り返して詰ますことができる。

 さらには▲72馬、△同玉、▲83と、とせまられたとき、王様が△74から△85に抜けるルートを作っている。

 先の▲54馬が「詰めろのがれの詰めろ」なら、続く△67馬はそれを逃れての詰めろ。これすなわち、

 

 「詰めろのがれの詰めろのがれの詰めろ」

 

 という、ちょっと舌を噛みそうな、満塁ホームラン級の絶妙手だったのだ。

 まさに1組決勝にふさわしい見事な応酬だが、ここは脇が大豪米長に読み勝っていた。

 こんなものを食らっては、さしもの米長も負けを認めざるを得ないが、もちろんあっさりと勝負を投げてしまうわけではない。

 そう、なんといっても米長は「泥沼流」とよばれる男。

 局面はまいっているが、そんな簡単には楽をさせてくれないのだ。

 ▲72馬と取って、△同玉に▲83と、△同玉、▲94銀、△同馬、▲同香と、を消して、一回詰めろを解除する。

 

 

 

 これでまだ難しそうだが、脇の次の手が、また好手だった。

 

 

 

 

 △25桂と王手するのが、うまい手。

 ▲46玉△24角王手飛車で、やはり後手勝ちはゆるがない。

 ちなみに、王様を▲26に上がっても△15角と、こちらから打つ筋があって同じようなもの。

 さっきまで桂馬は、△45金と打って詰ます筋の土台になっていた駒だから、それをヒョイと跳ねてしまうのは、ちょっと気づきにくい。

 脇の柔軟な発想が感嘆を呼ぶ手で、こんなクリティカルヒットを2発ももらっては、さすが剛腕米長もなすすべもない。

 ▲35歩△51角▲86桂としばって「どうにでもしてくれ」と開き直るくらいしかない。

 

 

 

 後手は△44飛と打って、仕上げにかかる。▲45香△48竜

 いよいよ先手に受けがないから、▲74金から▲83角と王手して、せまるだけせまって▲44香と飛車を取る。

 

 

 

 いわゆる「下駄をあずけた」という手であって、

 

 「詰ましてください。ただし、やり損なったらゆるしませんよ」

 

 という局面。

 これが大事なところで、仮に負けは確定でも、相手にプレッシャーをかけながら、一縷の望みをたくす精神力は見習いたいところだ。

 ではここで、先手玉に詰みはあるのか。

 あれば文句なく後手が勝ち。

 パッと見は、ほとんど詰みそうだが、万一なければ、飛車を渡してしまった後手玉も相当に危険だ。

 さらには両者とも、難解な戦いが続いたせいで、時間もなくなっている。

 詰むや詰まざるやで、いよいよこの熱戦もフィナーレをむかえるかと思いきや、ここからが、この将棋のハイライト第2弾

 次の手が、またしても米長が読んでいない手。

 それも、先の△67馬とはまったく違う意味での、ちょっと信じがたい一手だったのだ。

 

 (続く→こちら

 

 


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