前回(→こちら)の続き。
「合コンで盛り上がるゲームを教えてください」
と、大学生になって遊ぶ気満々の後輩ホクヨウ君にたずねられた私。
そこで前回まで、私がいかに「チャラい学生のノリ」に苦戦してきたかについて語ってきたが、そんなノーパリピな私が今回オススメするのがこのゲーム。
ルールは簡単で、道具もいらずに楽しめる。特に「映画好き」「読書家」「音楽ファン」といった、うるさ型の面々が集まる飲み会などでやると、かならずアツクなること間違いなしなのだ。
私は北村薫さんの『朝霧』という本で知ったわけだが、以下その引用。
そういえば、おかしなゲームの出てくる話があった。「当然、読んでいそうで、実は未読の本を挙げる」という遊びだ。
五人でやるとする。自分が挙げた本を、他の四人が読んでいたら四点、三人なら三点といった具合。
どうです、簡単でしょ?
「未読の本」となっているけど、いろいろと「お題」を出す方がゲームの幅が広がる。
それが、ふだんから「おれはオタクだから」とか「これに関しては玄人」なんて言っているジャンルを選ぶと、なんともイヤーな盛り上がり方をするんですよ、イッヒッヒ。
とにかくこのゲーム、ライバルに
「え? おまえ、いつもは、あんな偉そうなこと言うてるのに、これ見たことないの?」
そう思わせられれば、られるほど、得点が高いという意地悪きわまりないルールになっている。
たとえば、お題が「映画」となると、
「ドイツの映画監督ルドルフ・トーメの名作『タロット』」
なんて答えても、ふだんの会話なら「へー、それおもしろいの?」なんて盛り上がるところだが、このゲームでは「ふーん」でお終い。ポイントはゼロ。
だって、知らないのが「当たり前」だから。そんな「オレは深いぜ」自慢をしても仕方がない。
でもこれが、『ロード・オブ・ザ・リング』とかなると、
「ええ!」
「あんなド定番観てないの?」
「おいおい、それでホンマに《映画好き》とか言うとったんか……」
間違いなく高ポイントゲット。
でも、その瞬間これまでキープしてきた「オレは映画には玄人」というキャラはガラガラと崩壊します。
はい、こう答えて「4ポイント」をいただいたのは、私のことですね(笑)。
嗚呼、これからは「映画好きを自称しているが、『ロード・オブ・ザ・リング』も見たことないヤツ」です。隠してたのに……。
いや、観ようとは思ってるけど、長いから……。
こういった見苦しい言い訳が、競技のスパイスにもなるんですね。
他にも、ボンクラキャラを自認しているのに『ファイト・クラブ』観てないとか、タランティーノが苦手で、『レザボア・ドッグス』も『キル・ビル』もノーチェックとか、『007』シリーズまったく知らないとか、北野武監督作も全滅とか、高得点ゲットと比例するように、「玄人」としての評価は旧暴落。
以下、本でもミステリファンが相手だと、「エラリー・クイーンの『Yの悲劇』!」で4ポイント。『Xの悲劇』も未読で、さらに倍。
ブラウン神父シリーズはまったくとか、『樽』は挫折したとか、チャンドラーは坊主とか、もうボーナスポイントつきまくり。
SFだと、「ハインラインの『月は無慈悲な夜の女王』、べスター『虎よ! 虎よ!』」で計8ポイント。
漫画なら「『ワンピース』『ジョジョ』『聖闘士星矢』まったく読んだことない!」で計12ポイント。
次々と高得点をたたき出す私。そのたびに「おお!」「おまえ、マジか……」と歓声が。
どうや、オレの独走や! 一気に大量得点で、このゲームはもらったで! 勝った、勝った、また勝った!
……で、私は明日から、なにを支えに生きていけばいいんでしょうか……。
このゲームを楽しむコツは、勝者へのご褒美をかなり大きくするか、敗者の罰ゲームをがっちりやらせること。
だって、そうしないと、だれも勝とうとしないんだもーん(笑)。
それくらいに、勝利と引き換えに、失うものが多すぎる遊びなのだ。私もここまで書きながら、もう軽く8回は死にたくなってます。まさにデスゲーム。
ちなみに、北村先生のエピソードでは怖ろしいオチがありまして、読書自慢の最高峰である大学の教授がこのゲームをやったところ、
熱くなった英文科の教授が思わず、大秘密を口走る。「ハムレット!」と叫んでしまうのだ。
この瞬間、部屋は凍りついたように静まりかえったそうな。
かように、「試合に勝って、勝負に負けた」という言葉が、これ以上に似合うものはない。ゲームの名前はズバリ『屈辱』。
北村先生によると、出典はディヴィッド・ロッジの『交換教授』だそう。
ロッジかあ、道理で意地悪なわけだ。イギリス流のユーモアは、ときにえげつないもんを生み出しますなあ。
え? 『交換教授』のこと?
もちろん、私は読んでませんよ。
はい、これで何ポイントもらえますか?
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