黒岩涙香の必殺「読破書斎」がこれだ! 鴻巣友季子『明治大正翻訳ワンダーランド』

2017年03月05日 | 

 黒岩涙香先生の書斎に、超あこがれる。

 黒岩涙香

 明治時代に活躍した作家で翻訳家、ジャーナリストなど、多彩な顔を持つ偉大な人。

 原作を大胆に改編する「翻案小説」でも有名だ。

 名前は知らなくても、先生のものした

 『鉄仮面

 『巌窟王

 『ああ無情

 などといったタイトルならば、聞いたことがある、という人はおられるのではないか。

 作家というのはもともとにして本好きなわけだが、この涙香先生もご多分にもれず、すごい読書家

 鴻巣友季子さんの『明治大正翻訳ワンダーランド』という本によると、なんと洋書だけでも3000冊を読んだそうである。

 3000冊といわれると、そのへんの読書ジャンキーなら、

 「まあ、それくらいは」

 といったところで、さして自慢にもならないが、洋書「だけ」でそれというのは、さすがであろう。

 そんな先生の口癖といえば、

 

 「紹介するにたる外国小説を一冊見つけるには、百冊は読まなければならない」。

 


 ということは、先生の作品ひとつにつき、その裏にはボツになった物語が100冊近く存在するということ。

 すごいものだ。作家というの大変な仕事であるり、作品によっては、それ以外の資料なども、読みこまなければならないそうな。

 そうなると1冊の本ができるのに、どれほどのものを読まなければならないのかと、めまいがしそうになる。

 そんな先生の家は当然本だらけで、自室を「読破書斎」と名付けていたそうである。

 読破書斎

 か、かーっこいいぃぃ!!!!! 本好きならシビレるようなネーミングだ。

 さすがは玄人、なにかこう自分の仕事への自負すら感じる、気風のいい言いきりではないか。

 同じく読書をこよなく愛する私は、そんな偉大な涙香先生に少しでも近づこうとすぐさま本棚を購入。

 若かりしころ買った本を、そこにずらりと並べた。

 私は学生時代、ドイツ文学を専攻していたので、そのラインアップは、



 トーマス・マン『魔の山』

 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』

 ライナー・マリーア・リルケ『マルテの手記』
 
 エーリヒ・マリア・レマルク『西部戦線異状なし』

 フランツ・カフカ『審判』。


 かつて対峙した重厚な書物を収めてみると、私の知性のほどが顕著にあらわされ、実に壮観である。

 ただ、ひとつ気になることがなくもない。

 こうして並べられた書物をじっとながめていると、どうもこれは「読破書斎」というよりも「挫折書斎」と命名した方がいい気がしてならない。

 かつてゲーテの名作『ファウスト』を読んだとき、合わせて上下巻あったのだが、グレートヒェンの第一部はともかく、後半の第二部はとにかく長かった

 しかもこれが、おもしろければともかく、読んでも読んでも書いてあることが意味不明。

 何度も泣きそうになった。つまんねーのなんの。

 そんな冬山登山みたいな2冊をなんとか読破し、まあ中身はサッパリであったが、こんな歴史に残るような文学作品なのだから、私のような阿呆にはわからぬ深淵なメッセージがきっとあるのだろう。

 と解説書をひもとくと、そこには、



 「えー、第二部に関しては特に意味とかないんで、めんどかったら、ぶっちゃけ別に飛ばしてもいいって感じッス」



 そんな意味のことが書いてあり、これには文庫本を壁にぶん投げそうになったものだ。

 なぐったろか、このぼけなす!

 ちなみに、上記の本の挫折理由は、上から順に



 「長いから」

 「長いから」

 「辛気臭いから」

 「辛気臭いから」

 「カフカって合わねー」



 となっており、私の知性のほどが顕著にあらわされ、これまた実に壮観である。

 ということもあったので、長い小説はよほどリーダビリティーが高くないかぎり、相当なる警戒が必要である。

 これではさすがに「読破書斎」の看板にいつわりありということで、本当にちゃんと最後まで読んだ本をチョイスしようと、



 杉作J太郎『ボンクラ映画魂』

 中岡俊哉『世界の怪獣』

 中村省三『宇宙人の死体写真集』

 『河崎実大全』

 はぬまあん『超絶プラモ道〈2〉アオシマプラモの世界』


 などを並べてみた。

 が、こちらは本当に読破したにもかかわらず、どうにも涙香先生のような文学的高貴というものが、今ひとつ感じられない雰囲気をかもしだしている。

 なにかこう全体的に、

 

 「オレが思ってたのと違う!

 

 といった雰囲気がバリバリであり、なぜそうなってしまうのか、謎は深まるばかりである。



 (続く





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