前回の続き。
後輩オウギマチ君につれられて、クリスマス前の
「かけこみ出会い系パーティー」
なるものに出席することになった、2004年12月の私。
話題はこの時期らしくM-1グランプリになり、
「笑い飯優勝間違いなし」
という空気の中、当時まだ無名の南海キャンディーズに注目していた私は、ここをチャンスと判断。
ダークホースの名前を出し話題をかっさらって、盛り上がったまま後輩にバトンをつなぐ。まさに「修哲のアシスト王」というべき、いい仕事を披露しようとしたわけだ。
そこで何度目かの
「やっぱ優勝は笑い飯やんな」
との声に、
「ちょっと待って!」
思わず百恵も、プレイバックと歌い出す早業で話に飛び入ると、
「いやいやボクは今年、南海キャンディーズに注目してるねん」
さりげなく披露。
このシブい情報に歓喜した女性陣は、すぐさま感嘆の声を上げ、
「さすが!」
「すごい!」
「通は見るところがちがう」
絶賛の声を、その身いっぱいに浴びるであろうという予測に反して、その反応というのが主にこういうものだった。
「はあ?」
「知らない」
「だれ、それ?」
あれ? あれ?
どした?
そう首をひねる間もなく、第二波がやってきて、
「なんで、そんなマイナーな芸人知ってるの?」
「もしかして、痛いマニア系ですか?」
「すごい壁を感じる」
などなど、ブレイク寸前の知る人ぞ知る芸人さんの名前を出しただけなのに、なぜかものすごい拒否モードの反応が返ってきた。
え? え? なんで? そんな急に冷たい。
さっきまで、みんなで楽しく飲んでたやないの。
突然の逆風に、体勢を立て直すきっかけもつかめない私。
またヒドイというか当然というか、こちらが「しくじった」ことを即座に察知したそこの男子たちが、ライバルを一人でも蹴落とそうと、そこに乗っかって、
「マジ、この人ヤバいッスね」
「いるよなー、マニアックな知識で主導権取れると思ってるヤツ」
「うわー、激痛やん。なんか、ひくわー」
あおるわ、あおるわ。
これが、えげつないのは、
「まず一番強いヤツを全員でたたく」
これがバトルロイヤルの鉄則なのに、戦力的には間違いなく下から数えたほうが早いはずの私から消しにかかるとは。
仁義もなにも、あったものではないというか、今でいう「炎上」のよう状態だろうか、とにかくなぜか袋叩きに。
まあ、むこうも
「とにかく、ライバルを一人でも削っていきたい」
それだけ皆必死だったのだろうが、こちらとしては、とんだ災難である。
あまつさえ女の子のひとりに
「なんか、そんな売れてない芸人の話、嬉々として話す人キモイ」
などと。今思い返してもヒドイことなど言われたりして、なにかもう太宰のごとく、
「生まれてすいません」
土下座しそうになったくらいだ。もう、ボコボコですがなあ!
まあ今思えば「笑い飯優勝」で盛り上がっているところに、皆が知らない別の名前を出して、会話の流れを滞らせたのはマズかったか。
あと、それが今で言う「知識マウント」をカマしてきたと解釈されたのなーとか想像するけど、まあそのときは泡を食ったもの。
そういった感情が錯綜する中、人間あせるとロクなことがないもので、
「い、いや、ちゃうねん、こ、これはオウギマチ君に教えられた話やねん」
修正できないまま、当初のもくろみ通りの発言したのだが、これだと後輩をアシストどころか、なんだか
「自分の失言を後輩になすりつけている卑劣な先輩」
としか見えず、場はますます雰囲気が悪くなり、頭をかかえたのであった。
結局その後、我々はこの大量失点を挽回できず、私の心も折れて、なにもできずに終わった。
これにて「ザンダクロス作戦」は頓挫。もちろん、私はおろかオウギマチ君までも、そのパーティーで彼女ゲットはならず。
後輩はひとりさみしい聖夜をすごし、先輩の評価は地に落ちたわけだが、ひとつ納得いかないのは、その後南海キャンディーズはM-1で準優勝して大ブレイク。
今では予想通り、すっかり人気芸人である。
ちょう待てい、私の目は確かだったではないか。
そこを見事に射貫いたのに、なんで「キモイ」とか言われなあかんかったんや!
さらに納得いかないのは、この話を聞いてやはり
「そらあかんやろ。南海キャンディーズってだれやねん。女の子だけやなく、オレでもそういうわ」
と笑った友人ヒラカタ君である。
彼はM-1の後、のうのうと「2005年明けましておめでとうコンパ」なるものに出席し、
「南海キャンディーズって、すごいやろ。オレは昔から目をつけてたから」
などとのたまって、
「えー、ヒラカタさん、あのふたりのこと昔から知ってたんですか? すごい!」
女の子にモテていたという。
いやいや待て! それはオレの役目や!
しかも、ただの「にわか」と思われないよう、私から仕入れた「足軽エンペラー」や「西中サーキット」の情報を駆使し、さも前から応援していたように語ってきたという。
まったく、けしからん話であるが、まあ人が「結果」を出せば手の平を返すのはサッカーのワールドカップを見ていてもよくわかる。
つまるところ、それを出せなかった私とオウギマチ君の全面敗北だったわけで、M-1で流れる『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の曲を聴くと、今でもあの時の光景をふと思い出すことがあるのだ。