「デュッセルドルフの吸血鬼」ペーター・キュルテン大いに語る

2015年01月13日 | 映画

カミングアウトというものは、大きな衝撃をともなう行為である。

 少し前に俳優の城田優さんが



 「男が好き」



 なんてつぶやいて女子は騒然となったらしいが、整形とかカツラとか、こういった告白というのは言う方も一大事だろうが、聞く方もそれなりに大変である。

 たとえばマリアキュルテンというドイツ人女性。

1929年、マリアの住むデュッセルドルフは、ちょっとした恐慌状態におちいっていた。

 その年の2月、8才少女が建築現場で体を13ヶ所も刺され殺されたのを皮切りに、町中の至るところで残忍な殺人事件が起こるようになったのだ。

 被害者は主に小さな女の子で、5才程度の幼い女の子もいたが、中には70歳の老女や男性などもいたらしい。

 この恐ろしい事件に、デュッセルドルフの街は震撼

 この時のことをドイツでは「デュッセルドルフの恐怖時代」と呼んでいる。

 そんなある日、マリアは夫ペーターと夕食のテーブルに着いていた。

 そこで、ペーターは唐突にこう切り出した。


「マリア、最近街を騒がしている殺人鬼のことは知ってるね」




 もちろん、街を恐れさせている「デュッセルドルフの吸血鬼」のことを知らない人間などここにはいない。

 ペーターは静かに続けた。




「あの犯人、実はオレやねん」




 いきなり驚愕のカミングアウト。

 思わず口に入れたザウアークラウトを吹きかけるところだが、突然こんなこといわれても普通は信じないものだ。

 実際、マリアも最初は冗談だと思い笑い飛ばしたが、ひょんなことから正体がばれ逮捕直前だったペーターは、愛するにはどうしても事実を知ってもらいたかったのだろうだろうか。

 ここからさらにカミングアウトというか、自分の犯した罪を子細に報告。



女を絞殺屍姦したあとに投げこんだ。

  女中をハンマーで殴り殺し屍姦した。

  少女に性的いたずらをしたあげく体を切り刻み、性器にハサミを突っこみ、石油をかけて焼こうとした。

  幼女を絞殺し死体を30ヶ所以上ナイフで刺し、口などにを詰めて埋めた

  その幼女を埋めた地図を書いて、新聞社に送りつけた。

  手頃な犠牲者が見つからないときは白鳥生血を飲んでいた。





 いやいや、晩メシ食いながらする話とちゃう!

 と言いたいところだが、ペーターの告白は止まらない。

 まさにカミングアウトの絨毯爆撃に、マリアは耐えきれず嘔吐

 すべてを聞き終えたマリアは「心中しよう」とうったえるが、ペーターは拒否

 結局、1930年5月、ペーターは逮捕された。

 余談だが、ペーターは逮捕後も取調中


「刑事さんと速記者の白い喉をこの手でめたいッス」




 などと発言したり、反省の色が見られないというか、どこまでもマイペースな困った殺人鬼なのであったそうな。

翌年7月。ペーターはギロチンで処刑された。

 いかがであろう、この強烈なカミングアウトは。

 まったく、聞くほうもたまったものではない。

フリッツラング監督の『』はこの事件を題材にしたといわれるサスペンス映画。

 古い作品だけど傑作です(→こちら)。

 

 


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