前回(→こちら)の続き。
目標にしていた「三冠王」をかけて、佐藤康光棋王・棋聖が、渡辺明竜王に挑んだ、第20期竜王戦七番勝負。
佐藤から見て2勝3敗の第6局は、先手渡辺の初手▲76歩に、2手目△32金(!)というオープニングから、早くも波乱の予感。
そこから「力戦相中飛車」になり、むかえたこの局面。
どう見ても前例のない形だが、こういうところは佐藤康光の土俵で、次の1手が渡辺の意表を突いた。
△33金と上がるのが康光流の、体重がのったパワフルな前進。
△32金型の振り飛車は、この金が働かないと苦しくなるが、それをずいと突き出すのが、見事な構想。
以下、▲45銀、△14歩、▲66角に△44金。
まさに、「オレが佐藤康光だ!」とでも言いたげな金のハイパーハンマー。
こういう将棋をいつも見せてくれるから、この男からは目が離せないのだ。
そこから、難解な攻め合いとなって、この局面をむかえる。
後手が△88銀不成として、飛車をいじめているところ。
普通は▲96飛と逃げるところだが、△95歩とさらに追及されてしまう。
▲76飛、△77銀成、▲86飛に△67成銀とされると、▲同銀は△77馬が、両王手の詰みになり先手が負ける。
かといって、飛車を取らせるわけにもいかず、渡辺が苦しそうに見えたが、ここで30分ほど残っていた持ち時間をすべて投入し、妙手をひねり出すのである。
▲98飛、△99銀成、▲96飛で先手優勢。
飛車取りに、一回▲98飛と沈むのがうまい手。
△99銀成とされて、部分的にはゼロ手で香を取られる形だから先手が損しているように見えるが、そこで時間差の▲96飛とすると、先手の飛車が相当楽な形。
とにかく後手としては、成銀が僻地に飛ばされたのが痛く、これ以上先手玉にせまる形がないし、飛車をいじめる順も消されている。
やむをえず△54飛と浮くが、▲61角で攻守所を変えてしまった。
以下、△77馬に▲68銀と埋め、△44馬に▲75桂と攻めつけて圧倒。
最後は▲99飛と、質駒になった成銀を補充しながらの寄せで、まさに
「勝ち将棋鬼のごとし」
という内容だった。
4勝2敗で渡辺が防衛に成功し、これで竜王4連覇。
またしても、渡辺明のワザの前に、三冠を阻止された佐藤康光。
結果は残念だったが、たとえここで敗れたところで、彼が「超一流」「Sクラス」の棋士であることを疑う者など居はしない。
それほど男が、こんな命がけの将棋を指しても届かなかったのだから、豊島将之が達成した「三冠王」というのが、いかに偉業であるかが、よくわかるではないか。
(中原誠の名人戦での入玉術編に続く→こちら)