世に「パイプマニア」という人がいるという。
ミステリファンの私としては、すかさずシャーロック・ホームズのことが思い浮かぶが、同じことを考えたのがミュージシャンで作家の大槻ケンヂさん。
オーケンのエッセイによると、この世にはパイプ煙草を愛するパイプマニアという人がおり、「ぱいぷ」という専門誌もあるという。
パイプの専門誌。マニアックすぎるチョイスだが、パイプというのはかなりメジャーな趣味だそうで、「日本パイプクラブ連盟」といったものも存在する。
その「ぱいぷ」誌の第55号の目次は、
『猫も杓子もパイプ』のブームが去ったら、私たちはブームの消長に左右されることもなく、パイプの煙を楽しんでいる。
これからも大いに煙の輪を広げようではないか。
オーケンも指摘していたが、私もそんなブームはまったく知らなかった。
どこでブームだったんだ。いやそもそもパイプを吸っている人というのを見たことがない。
私にとってパイプといえば、科学特捜隊のムラマツキャップかキッチン・ブルドッグの北村チーフである。
パイプの世界は奥が深いそうである。なんでも毎年、全国からパイプ好きが集まって大会が行われる。
そのルールというのが、
「どれだけ長い間火を消さず、パイプを吸っていられるか」
どんな競技やねんという気もするが、そのレポートによると
「残る三名で熾烈な戦いとなったが、大ベテラン林香選手(東海)が121分17秒、香山雅美選手(岡山)がよくねばったが、126分35秒で万策尽き、予想通り木内成一選手(徳島)が二氏を振り切り138分16秒で優勝、初の三連覇を成し遂げた」
これだけ読めば、長距離走か水泳の遠泳のようであるがパイプである。
これにはオーケンも、
「『大ベテラン』『熾烈な戦い』『よくねばったが』『万策尽き』『二氏を振り切り』『三連覇』と文字だけ読めば、トライアスロン鉄人レースのごとき戦いだがパイプなんである」
クールにつっこみを入れている。
おそらく、このパイプ合戦にもチェスや将棋のように「定跡」や「かけひき」や「心理戦」のようなものが存在するのであろう。
マニアックな趣味の持ち主と話をするのは楽しいというか、それ自体がマニアックな私の趣味である。
ホームズファンの私としては、ぜひともパイプマニアの人とシャーロックについて語りたいのであるが、煙草を吸わないのでパイプのおもしろさと奥深さは、たぶん理解できないだろうことで、それが残念ではある。
(続く【→こちら】)