ダーク・ゾーン 郷田真隆vs渡辺明 2015年 第64期王将戦 第6局

2024年03月30日 | 将棋・ポカ ウッカリ トン死

 信じられない錯覚というのがある。

 将棋の世界では、トッププロでもウッカリポカはめずらしくないが、ときにそれが「両対局者同時」に起こることがあり、見ている方も「えー!」 と目が回ることになる。

 

 



 2015年の第64期王将戦

 渡辺明王将棋王郷田真隆九段との七番勝負は渡辺が3勝2敗と防衛に王手をかけ第6局に突入。

 角換わり腰掛け銀から大激戦になり、入玉模様の難解な終盤戦が続いている。

 

 

 

 角の王手に、後手の渡辺がを打って受けたところ。

 後手のと金が大きく、寄せるのは難しそうだが、先手も3枚▲19が生きているのも頼もしく、なんとかなりそうにも見える。

 先手玉も危なく、その兼ね合いもあり、また駒を使うと、どこかで王手しながら抜かれる筋も警戒しないといけない。

 ここからの戦いがすごいのだ。

 

 

 


 ▲38桂と、ここから王手するのが好手。

 ここでは▲47銀が後手玉に圧をかけながら、▲58にヒモをつける一石二鳥の手に見える

 だが、これには△79飛と打って、▲66玉△19飛成とカナメのを除去され入玉が確定。

 

 

 そこで▲38桂と捨て、△同と、とさせてから▲47銀と打つ。

 

 

 

 これなら、△79飛から△19飛成▲38銀と、と金をはずして後手玉は捕まっている。

 なるほどという手で、まるでパズルのようだが、ここは郷田が力を見せた。

 渡辺は大ピンチだが、ここで△17飛(!)という豪打(?)を繰り出す。

 

 

 

 

 これがまた、見たこともない筋だが、強い人はこういう「ひねり出す」手にも妙味がある。

 将棋は勝ちが決まったあとの収束の仕方と、不利なときのねばり方棋風が出ると言われるが、クールでロジカルな渡辺から、こういう力ずくな手が飛び出すのも混戦のおもしろさ。

 しかし、スゴイ手だなあ。

 ▲38銀は一手スキにならないから△58飛成で後手勝ち。

 ▲17同香はそこで△48と、こちらを取り、▲28銀△99角と打てば詰み

 えらい手があったものだが、郷田は負けじと▲18銀と打つ。

 △同飛成▲同香に後手は△65歩詰めろをかけ、▲66歩△69銀と下駄をあずける。

 

 

 先手玉は詰めろだが、ここでの手番は値千金で、先手に勝ちがありそう。

 ▲17銀と王手して、△27玉▲38銀と取る。

 △同玉▲28飛で詰むから△18玉ともぐりこむが、そこで一回▲68金と受ける手が冷静で、先手玉に一手スキが来ない。

 いよいよ手がなくなった後手は、△46桂とプレッシャーをかけ「寄せてみろ!」と最後の勝負をせまる。

 ここが問題の局面だった。

 

 


 

 ここでは▲28飛と打って、△17玉▲37銀と取っておけば先手玉に詰みはなく、後手玉は必至で明快だった。

 ところが、郷田は▲29銀としてしまう。

 

 

 

 これが信じられない大悪手だった。

 そう、なんと△同桂成と取られてタダなうえに入玉が確定。

 

 

 それで渡辺が王将防衛だ。

 手順を尽くして、ついに勝利をつかんだかに見えたその刹那の一手バッタリ。将棋は無情である。

 だが、ドラマはここで終わらなかった。なんと後手は△同玉と取ってしまうからだ。

 これには▲28飛と打って、△19玉▲43成桂と質駒のを取ってジ・エンド。

 感想戦で△29同桂成を指摘されると、ふたりとも「はあ?」。

 まさかのまさかだが、渡辺と郷田の両方が、この△29同桂成が見えていなかった

 両者の読みが、あまりにも一致していたせいか、ウッカリもまたおたがいをトレースしてしまったのか。

 この後の第7局郷田が制して王将獲得するのだから、結果的に見て、とんでもなく大きな錯覚であった。

 トッププロ同士でも、こういうことがあるから入玉形の将棋と秒読みは怖いのである。

 


(郷田がA級昇級を逃した大ポカはこちら

(その他の将棋記事はこちらからどうぞ)

 


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