前回(→こちら)の続き。
ダラダラ棋譜並べとネット将棋だけで二段になれた私。
よくそんないい加減なことで、特に詰将棋を解かず、よく勝てるなとあきれる向きもあるかもしれないが、今回はまさにその「詰将棋」の話をしたい。
私は詰将棋が苦手であり、これまで、ほとんどマジメに取り組んだことがない。
その理由をズバリ答えるならば、
「頭を使うのが、めんどくさい」
そもそも将棋ファンに、不向きなんじゃないかという話だが、実のところ解けと言われれば、まあそこそこには、できたりする。
ネット中継の休憩時間や、連盟ホームページにある「今日の詰将棋」みたいな問題なら、むずかしくないから、それこそサクッと解けるもの。
棋力のおとろえた今試してみても、7手から11手詰くらいの問題なら、ウンウンうなって、がんばってやれば、一応大丈夫なようだ。
これは別に「解けるぜ」という自慢とかではなく、オーソドックスな詰将棋というのは指し将棋(詰将棋ファンはいわゆる「将棋」のことをこう呼びます)の技量が上がれば、自然に解けるようになるものだから。
つまり、ふつうは、
「詰将棋を解く」→「上達する」
というイメージだが、逆もまた真なりで、
「上達する」→「詰将棋が解けるようになる」
というパターンもあるわけだ。
私は明らかにこっち。
なので、
「詰将棋、やりたくない」
「やっても解けないから、つまんない」
という級位者の方がいれば、無理に取り組まなくてもいいと思うわけなのだ。
実際、私はそれで初段以上になれたし、こないだも言ったように先崎学九段も、
「詰将棋や詰碁をやらなくても、アマ三段くらいにはなれる」
と本で書いている。夢と希望にあふれている言葉だ。
では、われわれのような詰将棋をやらない
「終盤力がこんにゃく」
というアマが、詰む詰まないの部分を、どう戦えばいいのか。
ひとつは、テレビやネット中継の解説を参照する。
将棋中継を見ていると、難解な局面ではたくさんの変化が出てきて、
プロ「まあ、これは、だいたい詰みですよね」
聞き手「だいたい、ですか(笑)」
プロ「【約詰み】です。いや、それじゃダメですよね。じゃあ、いっちょ詰ましてみますか。あーやって、こーやって」
聞き手「あれ? 意外と、むずかしいですね」
プロ「【だいたい】で済ますと、これがあるんですよ(苦笑)。あ、待ってください! 詰みました。いやー最後が金じゃなく、先に桂でピッタリかあ」
みたいな流れがよくある思うんですけど、この詰み筋をしっかりと見ておく。
これなら、プロが考えてくれるし、目で追うだけでも結構勉強になります。
あと、「投了図以下の解説」も学べます。
実は将棋の詰みの場面というのは、その多くが「並べ詰み」。
一時期、増田康宏六段が
「詰将棋は意味ない」
と発言して話題を読んだが、もちろんまっすー本人が言うように、詰将棋自体が無駄というわけではない。
疑問なのは、難解な詰将棋の持つ
「絶対に実戦には出てこないマニアックな変化」
これが不要と言っているだけで、むしろ実戦で出てくる「手筋」の類の詰み筋はマスターすべしと。
具体的には、美濃囲いなら
「▲71角、△92玉、▲93香、△同桂、▲82金」
矢倉なら、
「▲23歩成、△同金、▲同飛成、△同玉、▲41角」
なんていう、実戦の頻出問題とか。
教科書通りな「美濃くずし」からの詰み筋。
▲71角に△92玉は▲93香、△同桂、▲82金。
また持駒が金だけだと、▲82金と打って、△93玉に▲72金と銀を取りながら王手して、△92玉には▲82角成。
△84玉には▲75銀(▲85銀)で詰むが、舟囲いのように先手の歩が▲87にいると、▲75銀には△85玉と抜けて詰まない。
などなど、こういう定番の形をたくさんおぼえておくと、終盤でとっても役に立ちまくりです。
こういう
「当たり前すぎて、詰将棋だと今さら出てこない形」
こそが即戦力になるわけで、
「投了図以下の解説」
はそれこそ初心者にとって、宝の山と言っていい。
こういうのをたくさん身につけると、逆算的に詰将棋も解けるようになります。これはマジで。
詰将棋の役割は、
「手を読む根気をやしなう」
「脳内にある将棋盤を可視化する」
というところにあるから、逆にある程度、将棋がわかってきてから、手を付けるというのはアリ。
あと、これは有段者になってから私もやったが、解くのがめんどいなら「鑑賞」という手もある。
これはなかなか、ピンとこないかもしれないけど、詰将棋には「芸術」という面もあるのです。
自分は湯川博士さんと門脇芳雄さんの
『秘伝 将棋無双 詰将棋の聖典「詰むや詰まざるや」に挑戦!』
という本に大感動して、詰将棋の美しさに開眼したのだが、それを解くのでなく、ただ「鑑賞」する。
これが存外、役に立ったような気がする。
解くのが無理でも、問題を見て、解けなかったらすぐ解答ページを開き、その手順を頭の中でなんとなく再現してみる。
これなら終盤力ヘボヘボでも、なんとかなるし、なんといっても美しい詰将棋を味わうというのは、至福の時間でもあるのだ。
浦野真彦八段の『詰将棋ハンドブック』なんか、あれはまあ、解きやすく作ってくれてるけど、「鑑賞」するにもステキな作品ばかりで超オススメ。
数学でも問題を解くには、ただ考えるだけでなく、様々な問題と解答をに触れて、パターンをたくさん身にしみこませるのがいいから、詰将棋もそうのはず。
実際、詰将棋の上達メソッドとして、
「詰将棋の本は問題を見て解けなかったら、答えを見てもいい」
とは、よく言うもの。
もちろん解ければベストだけど、むずかしければ、すぐに答えを見て、ちゃちゃっと次の問題にいく。
で、最後の問題が終わったら(答えを見たら)、最初のページに戻って、またくり返し。
それをサクサクやっていれば、3、4回目には、ほとんど解けるようになる。
私はこれと同じやり方を、大学受験のときやって、旺文社の『英単語ターゲット1900』を3ヶ月ちょっとでクリアできたりしたから、きっと効果あり。
要するに、詰将棋を使った「棋譜並べ」をやればいいのですね(棋譜並べのやり方については→こちら)
最後に、やっぱり一番大事なのは、ミもフタもないけど、
「そもそも一手違いの終盤戦にしない」
スプリント勝負にならないように手厚く勝つ。
あるいは、詰ますんじゃなく、相手に寄せ損なわせる。
あとまあ、実戦では
「見切り発車で、王手してたら詰んだ(詰まされた)」
なんてケースも多いので、もういっそ「くじ引き」みたいなものと割り切る。
まあ、これでも案外勝てるしなあ。
だって、おんなじくらいの棋力でこっちが詰ませられないんだったら、まあだいたい向こうも出来てません。
テキトーだけど、実戦ではこれくらい図太い気持ちで戦うのも大事。
なんだか、マジメな将棋の先生に怒られそうなことばかり書いてるけど、こんなもんでも初段になれるんですから、なかなか希望のあるハナシではありませんか。
(江戸時代の詰将棋「将棋無双」編に続く→こちら)