前回の続き。
1993年の王将リーグ。
羽生善治五冠(竜王・棋聖・棋王・王位・王座)と米長邦雄名人の一戦は、相矢倉から羽生が入玉を目指すのを、米長が角金銀損を甘受して押し返して大熱戦に。
図は米長が△46飛としたところだが、これで一見、先手に受けがないように見える。
△76飛を防いで▲77歩と打っても、△83銀と取って、これが△84桂からの詰めろで、ほとんど必至。
進退窮まったようだが、ここから羽生が次々と手を繰り出すのにご注目を。
▲66歩と打つのが軽妙な手。
△同飛は「大駒は近づけて受けよ」の格言通り、▲77銀と先手で受けられる。
▲77銀に△67飛成など逃げれば、4筋に飛車の利きがなくなるので、▲41銀などの筋で攻守所を変える。
後手は単に△83銀と成桂を取るが、▲73とと捨てて、△同金に▲65角と打つのが、また雰囲気の出た手。
▲76の桂にヒモをつけながら、どこかで▲32角成の強襲もねらった攻防の角だが、時間もないのに、よくひねり出せるものである。
米長は△84桂と打ち、▲同桂、△同銀とせまる。
先手玉は金縛りだが、後手は桂しかないため王手がかからない。
一瞬のチャンスに、羽生は▲34桂と反撃。桂は渡しても自陣に響かない形だから、そこが頼みの綱である。
△同銀、▲同歩に△84桂の効果で△66飛と王手されるも、そこで▲76角打(!)。
嗚呼、かなしいかな。先手玉は一歩も動けず、飛車に金銀香のどれかがあれば1手詰みなのに、頭の丸い角と桂だけではせまるのがむずかしい。
こうなると大ピンチに見えて、反面読みやすい局面ともいえる。
一手スキの連続でせまるか、そうでなくとも、角桂歩以外の駒を渡さず事を進めればいいのだ。
それも容易というわけではないが、その勝利条件を羽生は見事にクリアしてしまう。
後手は▲32角成を防いで△54歩と打つが、▲44銀、△36飛に▲41銀とラッシュ。
以下、△34飛に▲33香と打ちこんで、△44飛、▲32香成、△12玉、▲22金、△13玉、▲23金、△同玉。
この熱戦も、ついに結末が見えてきたようだ。
ここからの3手で先手が勝ちになる。
実戦で現れるには、あまりにもカッコイイ筋なので、みなさまも考えてみてください。
▲67角と引くのが妙手。
△同とと取らせて△56への利きを消してから、そこで▲56角と引くのが、すばらしい組み立て。
2枚の角がヒラリと舞い降り、これが△34から△45の逃走ルートを封鎖して、先手勝ち。
△24玉は▲23飛。
▲56角に△45歩と合駒しても、▲22飛と打って詰み。
まるで江戸時代の古典詰将棋のような形で、泥仕合から最終盤は華麗な手で収束と、将棋のおもしろさのエッセンスが詰まったような一局でした。拍手、拍手。
(続く)
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