前回に続いて、『秘伝 将棋無双』(湯川博士著 門脇芳雄監修)について。
江戸時代の名人である三代・伊藤宗看の創った百題の詰将棋集『将棋無双』。
先日は、「歩の不成」という、実戦ではまずあらわれることのない、おそろしい詰将棋の手筋を紹介したが(→こちら)、「将棋無双」にはもうひとつ、スゴイ問題もあったのだ。
将棋無双の第11番。
初手▲83歩成と王手すると、△71玉、▲72銀、△62玉、▲63歩で打ち歩詰め。
そこでまず、初手に▲83歩「不成」とする。
出ました、またも歩の不成!
ここでまず悲鳴だが、こちらも前回の問題で、少々免疫もできている。
「ま、伊藤チャンやったら、これくらいはナ」
なんて、平静を装っているが、次の第2波で泡を吹くことになる。
▲83歩不成、△71玉、▲72銀、△同玉に▲82歩不成(!)。
なんと、まさかの2連チャン。
歩をと金にしないだけでも、常人の感覚では違和感ありまくりなのに、なんと、その成らずで突いた歩を、もう一度「▲82歩不成」として王手するのだ。
連続歩の不成!
もちろんのこと、この一見ありえない手順は、必然でこれ以外では絶対に王様は詰まないという、唯一無二の正解なのだ。
えええええええ!!!!!!
こんなこと、ありえるのお?
いやこれが、ありえるんスッよ。
歩の不成2連発が、これしかない、まさに正義の2手なのだ。
なんちゅう手なのか、もう無茶苦茶だよ。
以下、△62玉、▲63歩、△同玉、▲45角、△同桂、▲54銀、△62玉、▲63歩、△71玉、▲81歩成、△同玉、▲86香、△同飛、▲72金、△92玉、▲83銀、△同飛、▲同角成、△同玉、▲82飛、△94玉、▲95歩、△同玉、▲96金、△同玉、▲86飛成まで。
さきの歩不成のところ、ふつうに▲82歩成にしてしまうと、正解と同じように追ったとき、▲63歩が打ち歩詰になる。
どっこい、ここを不成にしておけば、▲63歩に△71玉と逃げる余地があって、そこで▲81歩成と、今度は成って行けば詰む仕掛け。
これには頭はクラクラ。めまいがしそう。
すごいなあ、ようそんな発想が出ますわ。
あと、さりげないんですが、前回の
「▲94竜、△同玉、▲84金」
とか、今回の
「▲96金、△同玉、▲86竜」
なんて、収束の形も綺麗で、そこもほっこりする。
今さらながらであるが、これ江戸時代の作品なんです。すげえッスわ。
(「神局」編に続く→こちら)