安藤健二『封印されたミッキーマウス―美少女ゲームから核兵器まで抹殺された12のエピソード』を読む。
安藤健二さんといえば、その著書で、
『ウルトラセブン』第12話「遊星より愛をこめて」
『オバケのQ太郎』
『キャンディキャンディ』
などといった「封印作品」にこだわり、その原因や作品のその後などを、丹念な取材により伝えてくれる。
この『抹殺された』は、雑誌に掲載されていた記事をまとめたもの。
取材拒否にあって尻切れトンボに終わってるものもあるせいか、代表作である『封印作品の謎』ほどのまとまりはないものの、
「タイタニックの日本人生存者」
という記事は一読の価値がある。
沈没したタイタニック号には日本人の細野正文という乗客がいて、彼はなんとミュージシャンである細野晴臣さんのおじいさん。
実はこの細野正文氏、幸運なことにあの惨事から辛くも生還できたのであるが、帰国後
「他人を押しのけて救命ボートに乗った」
という報道がされたことによって、非難の目にさらされることになる。
安藤氏は、その真偽を確かめるべく奔走するのであるが、かなり踏みこんで取材してあり、その検証もなかなかのもの。読み応えは充分であった。
もうひとつ気になる記事といえば、やはりタイトルにもあるミッキーマウスであろう。
ディズニーといえば夢の国であり、世界中の人々から支持を集めているが、同時に人気者の常として、なにかとダークでディープなエピソードにも事欠かない。
戦中の反日反ナチのプロパガンダアニメや赤狩りなど、「闇の王子」の一面は有名だが、日本で黒ディズニーエピソードといえば、本作でも取り上げられている、
「滋賀県の小学校が、卒業制作としてプールの底にミッキーマウスの絵を描いたら、ディズニーからクレームが来てむりやり消去された」
まったく、おそろしい話ではないか。
子供たちが楽しそうに、みんなで絵を描いているところ、きらびやかなスターパレードの音楽とともに、作業服着てサングラスかけた土建屋ミッキーやドナルドが登場。
電飾キラキラで飾りつけた巨大なブルドーザーを操縦して、。子供たちが泣いて懇願するのを足蹴にし、
「権利とか、いろいろおまんねんで」
かわいいダンスを踊りながら、天安門事件の戦車のように、プールの底にしつらえたキャンバスを容赦なく破壊。
そしてすべてが終わったあとには学校や保護者宛の、ものすごい数のゼロのついた請求書だけが残されていた……。
なんていう、話のディテールは聞くところによってさまざまだが、大筋はこんな感じだ。
封印マスター安藤氏は、この都市伝説にも果敢に踏みこんでいくが、さすが相手が相手だけに、なかなかうまく取材もできないことも多く、結果はよくわからないことになっている。
やや消化不良な結末となってしまっているが、これは瑕疵ではなく、著者ほどの踏みこみを見せたにもかかわらず、切っ先が真実に届かなかったところが逆にリアルであるともいえる。
本当にややこしいことというのは、そう簡単に掘り起こせないものなのかもしれない。
結局のところ、ブルドーザーのようなわかりやすい「悪のディズニー」みたいなものは、それこそ「伝説」にしても、ただのトリビア的おもしろエピソードと笑ってすませられないような不穏な空気感は満載。
実際に安藤さんも取材中に何度も、
「もう、その話はいいでしょう」
と言われたそうで、現場に気まずい禍根を残すだけのなにかがあったことだけは、たしからしい。
それにしても、ディズニーというのは宮崎駿さんに「米帝ディズニー」と呼ばれるだけあって、この手の都市伝説のようなものがよく似合う。
ディズニーランドのファンはよく「かくれミッキー」を見つけてはよろこんでいるが、
「リアルかくれミッキー」
これは、今日もまたどこかで、ひそかにブルドーザーを転がしているのかもしれない。
ねずみの絵を描くときは、ご用心、ご用心。
(続く→こちら)