Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§31「デミアン」 へルマン・ヘッセ, 1919.

2014-12-02 | Book Reviews
 少年シンクレールは恵まれた環境に育ったがゆえに、何気なくついた嘘につけこむ級友の存在は彼にとってのコンプレックスであり、そのコンプレックスを解消してくれたのは、他でもない年上の少年デミアンでした。

 シンクレールが道に迷うときや道を選ぶときには、常にそばにいてくれて、偶然に働きかけてくれるのがデミアン。成長するにつれて、恋こがれ戸惑い悩むシンクレールが描いた少女ベアトリーチェの肖像画は、デミアンのようにも見え、デミアンの母のようにも見え、実は成長していく自らの自画像でした。

 デミアンからの手紙に綴ったメッセージ。鳥が鳥として生まれいづるには卵の殻を破壊することによってのみ。第一次世界大戦の足音が忍び寄り、絶えず繰り返される抗えない現実のなかで、自己実現への鍵を確信する青年になっていくシンクレール。

 第一次世界大戦の惨禍を経たドイツを舞台に、自己実現に至る過程をユング心理学をベースに綴った叙事詩のような気がします。

(余話)
 聖道の奥に控えたステンドグラスに潜む老賢者と聖母は、無意識に潜んだ理性的な智慧とすべてを受けいれ包容する大地の母としてのイメージなのかもしれません。

 そして、ステンドグラスの頭上に幾重にも巡らせたアーチによって、より高くより広く構成された空間は祈りが救いを叶える瞬間を創造しているような気がします。

初稿 2014/12/09
校正 2020/01/10, 2022/06/11(余話)
写真 聖ヴィート大聖堂
撮影 2001/09/11(チェコ・プラハ)