約25年前、大学の研究室の本棚から手にとった一冊。当時、専攻していた気象や流体力学の難しい方程式に頭を抱えていた私にとって、視点を変えて眺めることの大切さを示唆してくれたような気がします。
流体力学は古典物理学におけるニュートン力学の一つであり、空気や水といった流体を個体と同様に連続した粒子と仮定して、その質量と運動量とエネルギーが一様な空間において保存され、初期値さえ与えれば時間経過後の状態を予測できるという考え方だと思います。
ひょっとしたら、未来は予測できるものであり、自然現象さえも制御できるという「近代化」のもたらした価値観の一つなのかもしれません。
ところが、「入力にほんの僅かの違いがあっても、出力に莫大な違いが生ずるといった現象には『初期値に対する鋭敏な依存性』という名前がつけられ(p.22)、蝶の羽ばたきが海の向こうで竜巻を起こしかねないことの喩えを「バタフライ効果」というそうです。
「カオスとは、できてしまったものというより形成過程の科学、いうなれば『こうある』というより『そうなっていく』ことの科学なのだ、と言う者もいる」(p.16)
これまで、宇宙や原子や素粒子といった伝統的な物理学が中心だったノーベル物理学賞において、初めて気象分野の研究者が今年度受賞したことは、ニュートン力学という決定論的な世界観でありながらも、気象現象のように非周期的な振舞いを目の当たりにする現実に、自然現象は制御できるという「近代化」のもたらした価値観はもはや絶対的なものではないことを示唆しているような気がします。
初稿 2021/10/30
写真 静水圧から滲み出る非周期的な振舞い
撮影 2012/09/30(東京・皇居外苑)
流体力学は古典物理学におけるニュートン力学の一つであり、空気や水といった流体を個体と同様に連続した粒子と仮定して、その質量と運動量とエネルギーが一様な空間において保存され、初期値さえ与えれば時間経過後の状態を予測できるという考え方だと思います。
ひょっとしたら、未来は予測できるものであり、自然現象さえも制御できるという「近代化」のもたらした価値観の一つなのかもしれません。
ところが、「入力にほんの僅かの違いがあっても、出力に莫大な違いが生ずるといった現象には『初期値に対する鋭敏な依存性』という名前がつけられ(p.22)、蝶の羽ばたきが海の向こうで竜巻を起こしかねないことの喩えを「バタフライ効果」というそうです。
「カオスとは、できてしまったものというより形成過程の科学、いうなれば『こうある』というより『そうなっていく』ことの科学なのだ、と言う者もいる」(p.16)
これまで、宇宙や原子や素粒子といった伝統的な物理学が中心だったノーベル物理学賞において、初めて気象分野の研究者が今年度受賞したことは、ニュートン力学という決定論的な世界観でありながらも、気象現象のように非周期的な振舞いを目の当たりにする現実に、自然現象は制御できるという「近代化」のもたらした価値観はもはや絶対的なものではないことを示唆しているような気がします。
初稿 2021/10/30
写真 静水圧から滲み出る非周期的な振舞い
撮影 2012/09/30(東京・皇居外苑)