Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§138「41歳からの哲学」池田 晶子, 2004.

2022-01-29 | Book Reviews
 「14歳からの哲学(§136)」は義務教育が終わる一年前、進路選択に戸惑う少年達に向けて、言葉の力を信じて問い続けることの大切さを示唆しているような気がします。

 一方、「41歳からの哲学」は厄年が始まる一年前、もう若くないことを意識せざるを得ない世代に向けて、日々巡り合う現実がどうしてそうなっているのか、そしてどういうことなのかを問い続けることの大切さを示唆しているような気がします。

「難しい話ではない。現実に生きているわれわらは、現実に死んではないのだから、現実に生きているわれわれにとっての死とは、現実ではなくて必ず観念であるという、当たり前の話である」(p.11)

 ところで、観念とは私たちが生まれる前から存在している言語という記号体系によって長い時を経て意識される考え方に過ぎず、自らが何も問おうとしなければ固定観念として扱ってしまうことで、自らの自由を放棄しているのかもしれません。

 年齢を重ねればこそ、当たり前と思われていることに関して、しっかりと自らに問い続ければ、トンネルを抜けて眼の前に広がる光景は、「なんて素晴らしいんだ」と思えるような気がします。

初稿 2021/12/12
写真 トンネルの向こう側
校正 2022/01/29(投稿履歴修正)
撮影 2021/12/04(東京・明治神宮 御苑)
発行 2004/07/15 初版 新潮社

§137「14歳の君へ」池田晶子, 2006.

2022-01-29 | Book Reviews
 「14歳からの哲学(§136)」の続編、背表紙に記された保護者と教師の方へのあとがきの一部が印象に残ります。

「受験の役には必ず立ちませんが、人生の役には必ず立ちます」(p.190)

 高校を卒業して約三十年、親として子どもたちの進路選択に立ち会ってみると、学ぶ目的と進学の意味について認識を合わせることが大切だと思います。

 友愛や個性など当たり前と思われている観念について、「なぜそうなっているのか」という問いかけと「それはどういうことなのか」という自分なりに納得できる物語を想像することは、自由度を狭めぬ考え方や学び方に大きく繋がるような気がします。

初稿 2022/01/29
写真 共に学ぶということ
撮影 2021/03/28(埼玉・東松山)

§136「14歳からの哲学」池田晶子, 2003.

2022-01-29 | Book Reviews
 来春進学を控えた高校三年生の長男が初めて私に薦めてくれた本。幼い頃からサッカーが好きな長男の夢は、「ゆう名なサッカー選手になること」と絵馬に書いていたのを思い出しました。

 インターハイに出場する強豪校で、トップチームのレギュラーとしてプレイすることは出来ないかもしれないけど、どんなかたちであれそのピッチに立ちたいという志をもって入学して早三年。

 しかしながら、技術や体力が及ばないだけでなく、怪我や手術によって出場機会を失ったことに加えて、コロナ禍によって多くの試合や大会が中止や縮小となるなか、ピッチに立って応援する機会すら失われてしまいました。

 そんななか、進路選択に悩みながら、図書館で巡り合ったその本にはこう綴られていました。

「考えるということは、多くの人が当たり前と思って認めている前提についてこそ考えることなのだと、君はそろそろわかってきているね」(p.80)
 
 なぜ、「有名なサッカー選手になりたい」のか。なれなければどうなるのか。そもそも、自分という人間はいったい誰なのか。

「言葉を所有する限り、人間は問わざるを得ないんだ、『なぜ生きるのだろう』」(p.122)

周囲の声や評価に臆することなく、しっかりと自らに問い続ければ、必ずトンネルの向こう側に見たことのない光景が拡がると思います。

初稿 2021/11/05
校正 2022/01/29(投稿履歴修正)
写真 トンネルの向こう側
撮影 2020/05/23(埼玉・坂戸)

§135「本質をつかむ聞く力」 松原耕二, 2018.

2022-01-22 | Book Reviews
 「報道特集」というTBSの番組は、その名は変われど中学生の頃から観ていた記憶があるので、私にとって思い入れがある番組のひとつです。

 現地取材を通した事実の解説と多角的な評価に力を入れていた番組の制作ディレクターを務めた著者の経験や価値観が垣間見える本です。

 アメリカ第一主義を標榜し、民主主義の脅威として目されていた前トランプ政権の支持者へのインタビュー。

「『中央から見放され、忘れられたこの街を、少なくともトランプは見てくれたんだ』その言葉に、僕は彼らの絶望の深さを感じた」(p.38)

 富める者とそうでない人々が、お互いの言葉に耳を澄ませようとしなくなったとき、偏見や差別、不満や憤りが深い溝を造り出すのかもしれません。

「もっともらしく聞こえるものこそ、疑おう」(p.94)

「相手の『言わないこと』に耳を澄まそう」(p.99)

「問いの奥にまで耳を澄まそう」(p.124)

そういったことを意識すればこそ、瞳に映る景色は違った光景になるような気がします。

初稿 2022/01/22
写真「陽光(ひかり)のなかで」佐藤敬助, 2003.
撮影 2016/05/22(大阪・御堂筋彫刻ストリート)
発行 2018/06/10 初版 ちくまプリマー新書 299

#69「もうひとつの成人式」

2022-01-16 | Liner Notes
 長女の成人式から一週間。コロナ禍で逢えない遠く離れた祖父母へ贈るための写真を整理していると、なにかしら感慨深いものがあります。

 幼かったはずの長女が晴れ着を纏い、いつのまにか成人した姿を眼にすると、なんとなく手が届かない存在になったような気がするのは、長女の成長を祝う気持ちの傍ら、家族五人が一緒に過ごす機会が少なくなるせいなのかもしれません。

 長女が関東へ戻る当日、妻と私に花を届けてくれました。

「成人式、祝ってくれてありがとう。そういえば、ママもパパも親としての成人式だね」

 子供たちの将来を案じて人生のレールを敷くのも親心かもしれませんが、自らの責任において進路を選択するように考えるきっかけを作ったり、働きかけ続けることを心がけたいと思います。

 ひょっとして、親から子へ、子から孫へ、ちゃんと伝えていきたいことを再認識することが、家族にとってもうひとつの成人式だったような気がします。

初稿 2022/01/16
写真 長女からのプレゼント
撮影 2022/01/13(兵庫・西宮)