Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§83「もうひとつの成人式」

2024-01-28 | Liner Notes
 少し前の話ですが、大学二年生の長男は思うところがあってか成人式には行かないとのこと。

 サッカー一筋で頑張ってきたものの、大学ではサッカーをやらず居心地のよい自由と裏腹に孤独な時間を過ごしているのかもしれず、久しぶりに会える同級生に誇れるものがなかったからなのかもしれません。

 学ぶつもりがなければ、大学なんて辞めてもいいよと言うと、そもそも学ぶとはなにかが分からないと言う始末。でも、放っておいてほしいと言いながらも、どこかしらちゃんと僕をみてほしいという気持ちがみえ隠れするようにも感じます。

 親にとって子供達はかけがえのない存在だからこそ、ちょっとした心配から口を挟んでしまいがち。でも、親が口を挟めば挟むほど大きな不安に駆られ、子供の成長や可能性を阻んでしまうのかもしれません。

「やりたいことがぼんやりと分かってきたのなら具体的な人生設計をしよう。そして必要な考え方や手段をちゃんと学ぼう。君はかけがえのない存在だから惜しみなく支えるので遠慮なく相談してほしい」

 まわりからどう思われようと、ありのままの自分を大切にすることができれば、きっと交わる人も大切にできるし、いつしか納得できる道を歩めると思います。

 親子水入らずでそんな話をした後の彼の言葉を聞くと、これもまたもうひとつの成人式だったような気がします。

「やっぱり、成人式には行かないよ。だって、たったいま成人式が済んだばかりだから」

初稿 2024/01/28
写真「SUMMER」朝倉響子, 1984.
撮影 2022/12/17(東京・墨田川テラス)
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§172「賭博者」ドストエフスキー, 1866.

2024-01-14 | Book Reviews
 ルーレットのように確率的にしか存在しない偶然の組み合わせをあたかも必然であるかのごとく思うとき、たしかにそれはそれで不思議な出来事だと思います。 

「実際、偶然のチャンスの流れの中に、一つの体系とこそ言わぬまでも、なにか一種の順序のようなものがあるのだ。もちろん、それは不思議なことである」(p.47)

 賭博であれなんであれ、たった一つの価値観しか持ち合わせていないと、考えることを見失い、もはやそれだけしか見えなくなることなのかもしれません。

「どこにいても僕の目に映ずるのはあなたの姿だけで、それ以外のものはどうだっていいんです」(p.66)

 ところで、外から見える生身の実体としての私もあれば、まわりからそう思われる私が存在する一方で、様々な条件や環境に依存し、そこで得られた様々な記憶や経験から語らしめる言葉によって存在する〈わたし〉もまた存在するのかもしれません。

 ひょっとしたら、この作品もまた、私が〈わたし〉であるということはどういうことなのかを問うているような気がします。

初稿 2024/01/14
写真 「Trans-Double Yana(Mirror)」名和晃平, 2012.
撮影 2023/12/17(東京・丸の内ストリートギャラリー)
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♪62「稜線を望む風景」

2024-01-01 | Season's Greeting
 昨年は、故郷である佐賀への引越しや長女の就職、そして年老いた父の介護など、家族にとって大きな節目だったと思います。

 そういった経験や様々な人との出会いなどによって、これまでの価値観そのものも少しづつ変わるものなんだなと感じます。

 ところで、幼い頃から眺めていた天山の稜線は〈わたし〉の原風景の一つ。その姿は変わることはないにせよ、空をたなびく雲の形や峰々を支える大地の彩りの移ろいは新たな印象や力を呼び覚ますような気がします。

 あらゆる景色は観る人によって様々かもしれませんが、稜線を望む風景は自らにとって二つとなく、今年も充実したと思える一年でありますように。

初稿 2024/01/01
写真「稜線を望む風景」
撮影 2023/07/30(佐賀・天山)
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