Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

α53H「渋沢栄一」 朝倉文夫, 1955.

2024-07-21 | Exhibition Reviews
 二十年ぶりに紙幣が新しくなりました。その一万円札を飾るのは渋沢栄一、三年前の大河ドラマ「青天を衝け」を思い出します。

 現在に至る日本経済の礎を築いた人物がデザインされ、これまでの紙幣偽造防止技術に加え、3Dで表現された肖像が回転する最先端技術も採用されているそうです。

 ところで、東京駅に程近い常盤橋の傍に佇む渋沢栄一像が最初に建立されたのは没後二年経った1933(昭和8)年、当時の日本が国際連盟を脱退し、国際社会から孤立してゆく世の在り様が彼の瞳にどう映ったのでしょうか。

 ひょっとしたら、あるべき姿は唯一つであったとて、関わる人それぞれにその行き着く道筋は幾多にも分かれ、それぞれの世界が待ち受けているかもしれぬことをしっかりと見つめているのかもしれません。

初稿 2024/07/21
写真「青洲 澁澤栄一」朝倉文夫, 1955.
撮影 2022/12/17(東京・常盤橋)

α52H「聖徳太子」 朝倉文夫, 1933.

2024-04-28 | Exhibition Reviews
 横浜・本牧に在る八聖殿には、「八聖」と呼ばれる像が鎮座しています※。それらの像のひとつが朝倉文夫作「聖徳太子」です。

 学生当時はあたりまえにその名で呼んでいましたが、現在では「厩戸皇子(うまやどのみこ)」と呼ばれているものの、いづれの名もまた本名ではないとの説があるそうです。

 ひょっとしたら、何処ぞの何某であるという名よりも、何かを成すためにどのような役割と責任を担ったのかということの方が大切なのかもしれません。

 約千四百年前に存在したとされるその人を誰しもが出会ったことはないにせよ、眼前のその姿は、史実に即した役割と責任を担うに相応しい姿をそこに存在させているような気がします。

初稿 2024/04/28
写真「聖徳太子」 朝倉文夫, 1933.
撮影 2022/03/27(横浜市八聖殿郷土資料館)
※)
§144「ソクラテスの弁明」プラトン, 納富信留 訳, 2012.

α51H「太田道灌」 朝倉文夫, 1956.

2024-04-21 | Exhibition Reviews
 東京国際フォーラムにたたずむ武士の像は、太田道灌が江戸を拓いてから五百年を記念した高度経済成長期のモニュメントだそうです。

 もともと、有楽町にある東京国際フォーラムは旧東京都庁舎跡地の再開発に伴い建設されましたが、このモニュメントだけは都庁が西新宿へ移転後もそのままの姿で現在に至っています。

 その作者は「東洋のロダン」と呼ばれた彫塑家・朝倉文夫、そしてその作風はモデルとなった人物像を介して在るべき姿や理想などを表現した印象を抱かせるような気がします。

 一方で、高度経済成長期後の「失われた二十年」と呼ばれる時代に西新宿へ移転した都庁にたたずむ女性の像のひとつに、朝倉文夫の次女である朝倉響子の作品※があります。父の作風とは異なり、ありのままの姿で、あるがままに臨もうとする印象を抱かせてくれるような気がします。

 親子の作品が新旧の都庁に設置されているのは思わぬめぐり合わせかもしれませんが、ひょっとしたら、設置された社会背景や時代を読み解く糸口になるのかもしれません。

初稿 2024/4/21
写真「太田道灌」 朝倉文夫, 1956.
撮影 2022/12/10(東京国際フォーラム)
※) #92「社会人としての第一歩」
  α20A「マリ」朝倉響子, 1984.

α50G「バネッサ」 朝倉響子, ---?.

2023-12-02 | Exhibition Reviews
 生まれてから現在までに経験したありとしあらゆる物事や出来事はすべて記憶できないにしても、意識の外側に在るとされる無意識の領域に記録されているという考え方があるそうです。

 写真は、人生の瞬間的な一断面の事実に過ぎないにしても、そんな無限の貯蔵庫のなかから関連する記録を呼び起こして、撮る〈わたし〉と観る〈あなた〉それぞれにとって新たな物語を創るのかもしれません。

 ところで、長い指を絡ませることなく、力を抜いた肩に添わせるその姿は、"ありのままの〈わたし〉"を知った安心感を覗かせているような気がする一方で、解いた髪をしっかりと結い直したその姿からは、"あるがままの〈わたし〉"に自信を持ち始めたような気もします。

 ひょっとしたら、これら一連の作品は、「あなたが〈あなた〉であるとは、どういうことなのか」という物語なのかもしれません。※

初稿 2023/12/02
写真 「バネッサ」朝倉響子, --?.
撮影 2023/01/25(東京・グランドヒル市ヶ谷)
注釈 ※)
α46G「ローリー」 朝倉響子, ---?.
α47G「フラワー」 朝倉響子, ---?.
α48G「リサ」 朝倉響子, ---?.
α49G「スーザン」 朝倉響子, ---?.

α49G「スーザン」 朝倉響子, ---?.

2023-11-24 | Exhibition Reviews
 写真は、ありとしあらゆる出来事や物事のなかから、〈わたし〉が選んだ視点を通して現れた構図だと思います。

 また、写真を撮るということは、無限の自由度を有する眼前の〈世界〉から、〈わたし〉がそう思う〈世界〉を存在させることのような気がします。

 そして、〈わたし〉が存在させたその〈世界〉は〈わたし〉の物語であり、その物語を観る〈あなた〉にとってはもうひとつの〈世界〉を存在させているような気もします。

 ところで、長い指と手の甲で顎を抱えるその姿は、"〈わたし〉はいったい誰なの"と不安を覗かせているような気がする一方で、身体の向きを変え結った髪を解いたその姿からは、飾らないありのままの〈わたし〉を知りたいと思っているような気もします。

 ひょっとしたら、この作品もまた、「あなたが〈あなた〉であるとは、どういうことなのか」と〈わたし〉に問いかけているのかもしれません。※

初稿 2023/11/24
写真 「スーザン」朝倉響子, --?.
撮影 2023/02/18(東京・北トピア)
注釈 ※)
α46G「ローリー」 朝倉響子, ---?.
α47G「フラワー」 朝倉響子, ---?.
α48G「リサ」 朝倉響子, ---?.