Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

α22B「SUMMER」朝倉響子, 1984.

2023-02-24 | Exhibition Reviews
 「SUMMER」という言葉から受ける印象のひとつとして、真夏の太陽に照らされて躍動する生命力のような気がします。

 でも、眼前の「SUMMER」は、躍動する生命力を感じさせず、むしろ虚ろな瞳で遠い彼方を眺める少年が不安そうな面影を顕わして佇んでいます。

 ところで、なぜその姿に「SUMMER」と名付けたのか?その言葉とその姿のギャップによって、観る人それぞれがあらかじめ意味を持つ限りない言葉を選び、自ずから分かる何かを物語らせてくれるような気がします。

 力強い翼を持たない少女※1と虚ろな瞳で遠い彼方を眺める少年が同じ場所にいながらも違う方向を向いています※2

 ひょっとして、必ずしも交わることが無い二人のようにも観えながらも、幼き頃の〈わたし〉そのものをその像に投影させ、その姿を眼前に存在させているのかもしれません。

初稿 2023/02/23
校正 2024/01/05
写真「SUMMER」朝倉響子, 1984.
撮影 2022/12/17(東京・墨田川テラス@新川)
注釈 ※1)α21B「NIKE」
※2)§165「貧しき人びと」

α21B「NIKE」朝倉響子, 1981.

2023-02-17 | Exhibition Reviews
 ギリシャ神話に登場する勝利の女神、ルーブル美術館が所蔵するサモトラケのニケが有名だと思います。

 でも、眼前の「NIKE」は、サモトラケのニケのような力強い翼を持たず、片ひざを抱いた少女が不安そうな面影を顕わして佇んでいます。

 ところで、観る人それぞれがそれをなぜそう思うのか?それがそうであるという意味が限りない言葉のなかから自ずから分かれるとき、それをそこに存在させているのかもしれません。

 力強い翼を持たないものの、遠くに映る紅葉と雄々しく茂る樹々が彼女に羽ばたく翼を持たせるかの如く観えるとき、ひょっとしたら、そこにもうひとつの「NIKE」になろうとする物語が始まろうとしているのかもしれません。

初稿 2023/02/17
写真「NIKE」朝倉響子, 1981.
撮影 2022/12/17(東京・墨田川テラス@新川)

§165「貧しき人びと」ドストエフスキー, 1846.

2023-02-10 | Book Reviews
 もはや、昇進が望むべくもないとはいえ、周囲からの評価に過敏に反応してしまう独り身の中年官吏と、誰からも支援を望むべくもなく孤児となったうら若き少女との物語です。

 ふたりが綴った手紙を読むと、それぞれの「現実」という生活において、それぞれがそう思う「世界」なるものを、それぞれに記されていますが、それらは近づこうとするものの交わることはなく、それぞれに自ずから分かれていきます。

 それを運命と思うことで悲哀と諦めに心を寄せることもできるかもしれませんが、ひょっとしたら、彼にとっては彼女との物語、彼女にとっては彼との物語として、そして読む人にとって自ずから分かる世界を存在させているのかもしれません。

「書きだしの数行をご覧になるとき、その先はなんなりと、お心の中でお読みとりくださいまし」(p.212)

初稿 2022/12/17
写真
「SUMMER」朝倉響子, 1984.(近景)
「NIKE」朝倉響子, 1981.(遠景)
撮影 2022/12/17(東京・墨田川テラス@新川)

α20A「マリ」朝倉響子, 1984.

2023-02-04 | Exhibition Reviews
 東京都庁を堂々と望み、自信に満ち溢れた姿が印象的な「マリ」。

 朝倉響子が創り出した作品達は、そのモデルが誰であろうとも、観る人それぞれが自ずから分かる何かを物語らせてくれるような気がします。

 〈わたし〉らしさとは何かと考えはじめた少女の頃、その自我の芽生え※1からいつのまにか、将来のあるべき〈わたし〉を追い求めようとするなかで、ふと気づいたありのままの〈わたし〉※2

 そして、ありのままの〈わたし〉との対話※3や、あるがままの〈わたし〉※4との別離や覚悟を経て、迷いや不安を拭い去った、然るべき〈わたし〉なるものが「マリ」の姿に現れているような気がします。

 "わたしを〈わたし〉たらしめるのは〈わたし〉だけ"

ひょっとしたら、固く結んだ彼女の唇から、そう伝えようとしているのかもしれません。

初稿 2023/02/04
校正 2024/01/05
写真「Mari」朝倉響子, 1984.
注釈
※1)α16A「ジル」, 1988.
※2)α17A「フィオーナとアリアン」, 1992.
※3)α18A「マリとシェリー」, 1990.
※4)α19A「マリとキャシー」, 1989.
撮影 2022/12/11(東京・西新宿)