Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

β13「竜とそばかすの姫」 細田守, 2021.

2022-09-24 | Movie Reviews
 印象に残るシーンは、「ネット上の仮想空間」と「堤防から望む河の流れ」、そして「悲しみを分かちあって生きようとする人々の姿」です。

 約10年前の作品「サマーウォーズ」の延長線上の世界観、AIがネット上に構築したメタバース「U」。その仮想現実(VR)と拡張現実(AR)によって約50億人がアバターとして集う世界は、ごく当たり前に経験している事象を現実存在であると捉えるとその現実を超えた世界、いわばメタフィジカルな世界なのかもしれません。

 また、河が左から右に流れるフィジカルな光景が幾度か描かれるのは、時間は過去から未来へ一方向に流れ去る世界観を示唆している一方で、河の流れが逆になるシーンでは過去の悲しい経験を描きつつも、同様な悲しみを抱える人の力になろうとする現在を生きるためには、過去の経験を受け入れて自らがどう在るべきかを問うているような気がします。

 ところで、メタバースが現実に限りなく近い世界として存在するようになったとき、もしかしたら、「存在」とは何か?「自分」とは誰か?ということを考えるきっかけになるような気もします。

 ひょっとしたら、「美女と野獣」の物語も現実には在りえないとは認識していても、その物語に惹かれてしまうのは、観る者が自らそこに「美女と野獣」なるものを存在させているのかもしれません。

初稿 2022/09/24
写真「美女と野獣 "魔法のものがたり"」
撮影 2022/09/17(東京ディズニーランド)

β12「サマーウォーズ」 細田守, 2009.

2021-08-28 | Movie Reviews
 印象に残るシーンは、「ネット上の仮想空間」と「ルーツを同じくする家族」、そして「夏空に拡がる入道雲」です。

 約10億人のユーザが購買や娯楽に加え行政サービスも享けることができるネット上の仮想社会「OZ」。AI自動翻訳サービスによって世界中のユーザとアバターを介してリアルタイムでコミュニケーションができるARとVRで構築されたOZの世界観はスマホが普及し始めた2009年当時にしては斬新なデザインだと思います。

 近代化やグローバル化の潮流はテクノロジーの進化によって価値観が統一化された世界に向かう一方、セキュリティ上のリスクや埋没しかねない個人の在り方も示唆しているような気がします。

 ところで、日本の原風景を残す真夏の信州・上田を舞台に、戦国時代から続く氏族をルーツにもつ親族を中心として物語を描いているのは、社会が危機に瀕した有事においては多様な価値観をもつ人や少数派の集団が連帯することの大切さを示唆しているような気がします。

 ひょっとしたら、細田守監督の作品によく描かれる「夏空に拡がる入道雲」は、思春期の発達過程であるばかりでなく、進化した社会の成熟過程の暗喩なのかもしれません。

初稿 2021/08/28
写真 夏空に拡がる入道雲
撮影 2020/06/07(兵庫・阪神競馬場)

β11「時をかける少女」 細田守, 2006.

2021-08-06 | Movie Reviews
 1983年に公開された原作をモチーフとしつつも、三人の高校生が在るべき姿の模索を通じて自我を形成していく姿を描いた物語のような気がします。

 背景映像で印象に残るシーンは「急な坂道」と「夏空に拡がる入道雲」、そして「緩やかに流れる河」です。

 「急な坂道」は駆け下りることで日常の時の流れを超え、思うとおりに時の流れを操る力の暗喩なのかもしれません。

 でも、その力は日々を漫然と過ごす高校生にとっては自分に都合よく時の流れを変えてしまい、そのことによって他の誰かに及ぼす影響を少しづつ気づくようになります。

 また、「夏空に拡がる入道雲」は思春期の発達過程の暗喩なのかもしれません。

 身体的成長に伴う対人関係の変化や密接な友人関係に支えられ、自分は何に興味や関心があり自分に向いている進路や職業を模索することを通じて自我を形成していくようになります。

 一方で、「緩やかに流れる河」は人生を歩む人とともに寄り添いながら変わることのない普遍的な価値の暗喩なのかもしれません。

 主人公の叔母は約40年前の原作の主人公、彼女は博物館の学芸員として絵画の修復を通じて、時を超えて大切なことは何かを姪に伝える永遠の随伴者のような気がします。

 ところで、ユングの分析心理学によれば、恋いこがれる心理的状態は無意識に潜む理想の異性像であるアニマ/アニムスという元型のイメージが相手に「わが恋うひと」として投影されていると仮定しているそうです。

 とはいえ、わが恋うひとがどこから来たのか?どのように歩んできたのか?という事実や現実にあり得るかということよりも、誰にも理解してもらう必要のない秘密の物語を創ることが現実を受け容れることに繋がり、それが大人の階段を登るきっかけなのかもしれません。

初稿 2021/08/06
写真 "Time waits for no man."
撮影 2013/12/23(東京・国立博物館)

β10「Hello World」 伊藤智彦, 2019.

2021-05-08 | Movie Reviews
 コロナ禍における二度目のゴールデンウィークも終わり、収束の見通しも立たぬなか三度目の緊急事態宣言も延長されたので、さらにAmazon Primeの視聴機会が増えそうです。

 IOTによって取得した現実空間の詳細なデータをAIによって分析して仮想空間において双子として再現する技術がデジタルツイン。

 2037年の京都が舞台、現実空間における人の行動履歴、記憶、経験、価値観などのライフログを無限に記憶する装置がアルタラ(名の由来はAll Talesかもしれません)

 デジタルツインの一歩先、ひょっとしたら自らの瞳に映る世界は現実空間ではないかもしれませんが、自らの意識がその世界に関与することこそが物語であることを示唆しているような気がします。

 ところで、コロナ禍を現実的な問題として認識しているのは感染者と医療従事者に他ならず、まだ多くの人々にとって現実的な問題として認識されていないのかもしれません。

 放っておくと大変な事は何か?それが問題の本質であり、それを自分の物語として多くの人々が意識することも大切だと思います。

初稿 2021/05/08
校正 2022/02/18
写真 京都タワ一と羅城門(1/10模型)
撮影 2017/03/21(京都駅烏丸口にて)
備考 伊藤智彦監督は細田守監督作品の助監督を務めたこともあるそうです

β9「空母いぶき」 若松節朗, 2019.

2021-05-03 | Movie Reviews
 コロナ禍のなか二度目のゴールデンウィーク、三度目の緊急事態宣言も人流抑制効果が限定的とはいえ、不要不急の外出を控えるとAmazon Primeを視聴する機会が増えてしまいます。

 中国の軍備増強と海洋進出というノンフィクションの地政学的リスクに対して、洋上防衛強化の観点から就役した航空機搭載型護衛艦の存在と運用を問うたフィクション。

 平和を願うことは大切ですが、願うだけではかなわぬ平和を維持するために必要な抑止力として、国民を巻き込む戦争の回避という目的に対してのみ、局地的戦闘において抑制的に行使せざるを得ないという現実解を描いています。

 ところで、コロナ禍の収束を願うことは大切ですが、医療崩壊の回避という目的に対してのみ個人の自由や権利を一部抑制的に制限せざるを得ない場合も想定した国民的議論や合意形成が必要なのかもしれません。

 放っておくと大変な事は何か?それが問題の本質であり、その問題を対処することこそが目的に他ならないと考えることが大切だと思います。

初稿 2021/05/03
校正 2022/02/17
写真 憲法記念日を彩る満艦飾
(ヘリコプター搭載型護衛艦・はるな)
撮影 2007/05/03(京都・舞鶴)