Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§37「アンナ・カレーニナ」 レフ・トルストイ, 1877.

2015-05-23 | Book Reviews
 同じ原因は同じ結果をもたらすはず。つまり、結果には必ず原因が存在するというのが因果性。それは初期条件さえ与えられれば、その後の変化が決定される力学系のこと。

 ひとに出逢い恋募らせることは、いわば初期条件。そのひとを愛することは、自由であることに他ならないはずなのに、いつのまにか忍び寄る執着や嫉妬は、愛してはならない事情や理由がもたらす、いわば境界条件なのかもしれません。

 ただひたすらに、ひたむきにそのひとを愛そうとするほどにそのひとを支配せざるを得ず、一方で、逃れようとしても逃れられない事情や理由によって自らが支配されたときにアンナが迎えた最期は彼女がヴロンスキーと出逢った時に遭遇した事件と同じ。

 見返りを期待した瞬間から、もはや因果性に支配されるものなのかもしれません。見返りを期待することなく、自らが成すべきことを為すことこそが、生きることに他ならないことを示唆しているような気がします。

初稿 2015/05/23
校正 2020/01/03
写真「ジル」朝倉響子, 1993.
撮影 2015/03/21(大阪・御堂筋彫刻ストリート)