Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§7「葉隠入門」 三島由紀夫, 1967.

2013-03-16 | Book Reviews
「武士道とは死ぬことと見付けたり」

 旧佐賀藩士・山本常朝が語り部。三島由紀夫が座右の書として絶賛した武士の美学として評される書。

 三島由紀夫が説いたのは、自由意志の究極の姿が死を選ぶことと考えるのは幻。自らが生まれることを選ぶことができないことと同様に、自らが死も選べないはずという境地。

 死は選ぶべきものではなく、選ばざるを得ないものであるのならば、なおのこと日頃から必死に生きよと説いているのかもしれません。
 
 二十年振りに読み返してみて思うのは、ごく当たり前なことを逆説的に諭し、日頃の行動の心構えを示唆してくれるのが「葉隠」のような気がします。

初校 2013/03/16
校正 2020/07/07
写真 後醍醐帝をお迎えする楠公像
撮影 2012/10/29(東京・皇居外苑)

§6「落日燃ゆ」 城山三郎, 1986.

2013-03-13 | Book Reviews
 城山三郎のお薦めの三冊のひとつ。「男子の本懐」の続編ともいえる作品であり同じ時代のもうひとつの物語です。

 昭和の激動期において外相と首相を務めた広田弘毅の「絶対に戦争はさせない」との信念は、中国や旧ソビエトとの協調外交で平和を目指すものの、軍部の統帥権独立による執拗な妨害によって落日へと至る日本。

 彼は極東裁判で唯一、軍人ではないにも関わらず、A級戦犯として十三段の階段を上りました。彼が復活させた軍部大臣現役武官制度は陸海相は現役軍人にのみ限るとするものであり、二二六事件の再発防止のために首謀者と考えられた予備役や退役軍人を檜舞台から遠ざける仕組みのはずでした。

 その仕組みが結果として軍部にとって、時の内閣が邪魔になれば陸海相を辞任させることで倒閣させ、軍部の意に反した組閣であれば陸海相を推薦しないことで政党政治を形骸化させ、軍部の独走を招いたことを問われました。

 後世においてその評価が分かれるところではあると思いますが、成すべきことを果たすという信念と結果については、自ら計らわぬその覚悟は今を生きる人にとっての行動哲学にも繋がるような気がします。

初稿 2013/03/13
校正 2021/03/22
写真 翼をもつ麒麟
撮影 2012/10/15(東京・日本橋)