Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§102「キリストの誕生」遠藤周作, 1978.

2020-03-29 | Book Reviews
 出逢った人々の悲しみに寄り添うことしかできなかったイエスという名の男を見捨てた人々がなぜ、彼を救世主・キリストとして信仰するに至ったかを描く物語。

 異民族に国土を蹂躙されながら、苦難に耐え続けてきたユダヤの人々は、神に選ばれし民である我々は神との契約を護ることで、神は必ず救世主を遣わすはずという揺るぎなき期待を、確固たる信念として受け継いできたのかもしれません。

 しかしながら、救世主・キリストとして目されたイエスという名の男が、ゴルゴダの丘で不合理な死を遂げた時、なぜ神は奇跡を起こすこともなく沈黙し、彼を救わなかったのか?そして彼の死がもたらす意味はなにか?

 その2つの問いは、彼を見捨てた人々の後悔や罪悪感から生まれたのかもしれません。そして、決して解くことが出来ない命題を自らに課し、自らの心の奥深くに秘めている「影」と向きあうことによって、自らを救う「自己」が生まれるような気がします。

初稿 2020/03/29
校正 2021/12/28

§101「イエスの生涯」遠藤周作, 1973.

2020-03-28 | Book Reviews
 奇跡を起こすこともできず、人々からの期待を裏切り、誰からも見捨てられていくイエスという名の男の人生を描いた物語。
 
 期待とは意識が奏でる因果律のようなものなのかもしれません。期待はきっと誰かがかなえてくれるはず。その期待が大きいほど、疑うことなく熱狂する一方で、裏切られると失望に変わるような気がします。

 でも、誰かの悲しみに寄り添い、誰からも見捨てられてもなお、誰をも恨むことのなかった彼の生涯は、「永遠の随伴者」のイメージとして、彼と出逢った人々の心の奥深くに刻み込んだのかもしれません。

 ひょっとしたら、誰もが心の奥深くに秘めている「影」がもたらす、偽り・策略・謀略・悪意・支配を受けとめることは、自らの心の奥深くに秘めている「影」をも受け入れることなのかもしれません。

初稿 2020/03/28
校正 2021/12/27