Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

β12「サマーウォーズ」 細田守, 2009.

2021-08-28 | Movie Reviews
 印象に残るシーンは、「ネット上の仮想空間」と「ルーツを同じくする家族」、そして「夏空に拡がる入道雲」です。

 約10億人のユーザが購買や娯楽に加え行政サービスも享けることができるネット上の仮想社会「OZ」。AI自動翻訳サービスによって世界中のユーザとアバターを介してリアルタイムでコミュニケーションができるARとVRで構築されたOZの世界観はスマホが普及し始めた2009年当時にしては斬新なデザインだと思います。

 近代化やグローバル化の潮流はテクノロジーの進化によって価値観が統一化された世界に向かう一方、セキュリティ上のリスクや埋没しかねない個人の在り方も示唆しているような気がします。

 ところで、日本の原風景を残す真夏の信州・上田を舞台に、戦国時代から続く氏族をルーツにもつ親族を中心として物語を描いているのは、社会が危機に瀕した有事においては多様な価値観をもつ人や少数派の集団が連帯することの大切さを示唆しているような気がします。

 ひょっとしたら、細田守監督の作品によく描かれる「夏空に拡がる入道雲」は、思春期の発達過程であるばかりでなく、進化した社会の成熟過程の暗喩なのかもしれません。

初稿 2021/08/28
写真 夏空に拡がる入道雲
撮影 2020/06/07(兵庫・阪神競馬場)

§126「異文化理解」 青木保, 2001.

2021-08-21 | Book Reviews
 長男が志望する大学の課題図書を読んで、「多文化世界」という価値観に至る「異文化理解」という考え方に触れることができました。

 16世紀の大航海時代から始まった西欧化は、19世紀の産業革命を推進力とした植民地化を通じて、日本を含む諸国の近代化をもたらしました。

 近代化とは、個人の権利や義務を法によって規定したうえで効率性と合理性の観点から社会を最適化しようとする価値観に基づいて意識的に創り出したものかもしれませんが、異なる価値観をもつ少数派の個人や集団(民族含む)を排他的に扱う傾向があるような気がします。

 文化とは、個人や集団の規模を問わず永い時間をかけて無意識的に創り出した言語・習慣・習俗・儀礼などを通じて垣間見ることができる価値観のひとつだと思います。

 広い世界をひとつにしようと意識すればするほど、無意識的に創り出された多様な文化に触れて自国の文化を捉え直すことが、自らの存在や生きる上での価値観を培う観点から必要なのかもしれません。

♪世界中 どこだって 笑いあり 涙あり
 みんな それぞれ 助け合う 小さな世界♪
(Lylics by It's a small world.)

初稿 2021/08/21
写真 It's a small world.(小さな世界)
撮影 2020/02/19(東京ディズニーランド)

§125「多文化世界」 青木保, 2003.

2021-08-13 | Book Reviews
 長男が志望する大学から入学前育成プログラムの事前課題と課題図書が届きました。

 ごく当たり前に過ごす日常のなかで何の疑問もなく使っている言葉の定義を再認識し、その日常を取り巻く社会を意識的に見つめ直すきっかけになればと思います。

 「近代化」は16世紀の大航海時代を端緒としてヨーロッパの文化や宗教が世界に広がった「西欧化」という名の下で、欧米で発達した政治システム、経済システム、あるいは科学技術を自国の発展のために積極的に取り組んだ運動だそうです。

 「グローバル化」は欧米的な価値や基準によって世界を一様化・画一化しようとする運動であるのと同時に、1990年代の東西イデオロギー対立解消後においては文化の多様性もまた根強く存在することも明らかになったそうです。

 文化の構成要素が言語や宗教や民族であることを踏まえると、お互いが理解し共感し学び合うという考え方も必要なのかもしれません。

 人文学系統を学ぶ目的は、哲学・歴史・文学・宗教の立場から人間の在り方(存在)や人間が創り出したもの(文化・思想・歴史・社会)に関わる問題を明らかにして、主語としての人間の在り方がおろそかにならぬような未来を実現することのような気がします。

初稿 2021/08/13
写真 アクアスフィア
撮影 2013/08/13(東京ディズニーシー)
発行 2003/06/20 岩波新書(新赤版)840

β11「時をかける少女」 細田守, 2006.

2021-08-06 | Movie Reviews
 1983年に公開された原作をモチーフとしつつも、三人の高校生が在るべき姿の模索を通じて自我を形成していく姿を描いた物語のような気がします。

 背景映像で印象に残るシーンは「急な坂道」と「夏空に拡がる入道雲」、そして「緩やかに流れる河」です。

 「急な坂道」は駆け下りることで日常の時の流れを超え、思うとおりに時の流れを操る力の暗喩なのかもしれません。

 でも、その力は日々を漫然と過ごす高校生にとっては自分に都合よく時の流れを変えてしまい、そのことによって他の誰かに及ぼす影響を少しづつ気づくようになります。

 また、「夏空に拡がる入道雲」は思春期の発達過程の暗喩なのかもしれません。

 身体的成長に伴う対人関係の変化や密接な友人関係に支えられ、自分は何に興味や関心があり自分に向いている進路や職業を模索することを通じて自我を形成していくようになります。

 一方で、「緩やかに流れる河」は人生を歩む人とともに寄り添いながら変わることのない普遍的な価値の暗喩なのかもしれません。

 主人公の叔母は約40年前の原作の主人公、彼女は博物館の学芸員として絵画の修復を通じて、時を超えて大切なことは何かを姪に伝える永遠の随伴者のような気がします。

 ところで、ユングの分析心理学によれば、恋いこがれる心理的状態は無意識に潜む理想の異性像であるアニマ/アニムスという元型のイメージが相手に「わが恋うひと」として投影されていると仮定しているそうです。

 とはいえ、わが恋うひとがどこから来たのか?どのように歩んできたのか?という事実や現実にあり得るかということよりも、誰にも理解してもらう必要のない秘密の物語を創ることが現実を受け容れることに繋がり、それが大人の階段を登るきっかけなのかもしれません。

初稿 2021/08/06
写真 "Time waits for no man."
撮影 2013/12/23(東京・国立博物館)