Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§133「従順さのどこがいけないのか」将基面貴巳, 2021.

2021-11-28 | Book Reviews
 従順さとは、素直さという観念がある一方で、忠誠という観念をも含んだ言葉のような印象を受けます。

 「言葉」は発した声に意味を持たせた音声記号、「文字」は描いた線や点に意味を持たせた図形記号だと思います。

 それらは、私たちひとりひとりが生まれるずっと昔から地域やコミュニティの価値観を反映した「言語」という「記号」体系として存在しているのかもしれません。

 そして、その「記号」体系によって構成される観念は時代によって変化しつつも、その時代の社会環境に応じて固定化されているのかも知れず、私たちは従順さを忠誠に近い観念として意識しているような気がします。

 「忠誠心を抱く際に、相手が自分にとって重要な価値や信念に合致するかどうかを判断することが必要です」(p.64)

 忠誠心は自らの責任を免れる代わりに、つかの間の自由という解放感を得ることが多いのかもしれません。

 でも、誰かの言うことを鵜呑みにせず、自らの考えをちゃんと言えることが「理性的に判断・行動する結果に責任を感じる〜」(p.132)ことに通じるような気がします。

 自らが美しいと感じるものを美しいと言える素直さがあれば、思いもよらず出くわす景色のなかでめぐり逢える美しい光景があるような気がします。

初稿 2021/11/28
写真 有栖川宮記念公園
撮影 2021/11/27(東京・南麻布)

♪50「いづこにも 草の枕をすず虫は」

2021-11-20 | Season's Greeting
 「いづこにも 草の枕をすず虫は ここを旅とも思はざらなむ」伊勢(拾遺和歌集 巻三 一七九)

 古来より、大切な人への愛おしさを虫の音になぞらえて詠まれていたような気がします。

 愛おしい音色を奏でるすず虫を籠から庭に放ったものの、いづこへ行くとも知れぬすず虫にせめてもの、この庭のことは忘れないでと詠んでいるのかもしれません。

 いつのまにか、幼かった長女が成人式を控え、その晴れ着姿を前にすると、ふとそんなことを感じる秋の一日です。

初稿 2021/11/20
改題 2024/02/22
写真 成人式の前撮りに際して
撮影 2016/11/16(京都・東山)

§132「弱虫でいいんだよ」辻信一, 2015.

2021-11-14 | Book Reviews
 題名からは弱い人々により添う内容と思いきや、この世界はどのようにできているのかということを考えさせてくれる本です。

 とかく、強い生き物が生き残るのではなく、生き残ったものが強いのだと思いにくいのは、強さや弱さというあたりまえの言葉に価値判断がくっついていることが問題だと著者は問いかけます。

 その言葉に潜む価値判断とは、近代化がもたらした科学技術や政治経済による進歩が勝敗を決めるという価値観であり、その力によって他者のみならず自然をも支配できると考える世界観なのかもしれません。

 しかしながら、絶え間ない紛争や人類の生存そのものを脅かす気候変動を目の当たりにした現代社会において、そういった世界観そのものを見つめ直す時期に差し掛かっていると思います。

「生物たちは、『他の生物と少しずつ生息環境をずらしながら、自分の居場所を作っている』『居場所』とは、生態学で言う『ニッチ(生態的地位)、つまり、『ある生物種が生息する場所や範囲』のこと」(36頁)

 ひょっとしたら、私たちが「居場所」と思っている現代社会は、生態学的な観点からは「ニッチ」とはいえないからこそ、様々な競争や葛藤があるのかもしれません。

「もし、動物が自らを捧げたなら、人は感謝の祈りを捧げ、与えられた肉の贈り物を受け取らねばならない」(68頁)

 必ずしも原初の姿に戻るべきとまでは思わないものの、人間のみならず動物や植物といった自然はお互いの価値をなんらかの形で交換しあうという世界観をもつことは大切なことのような気がします。

初稿 2021/11/14
写真 武庫川 髭の渡し コスモス園
撮影 2021/11/14(兵庫・尼崎)