Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

♪61「それぞれのクリスマス」

2023-12-25 | Season's Greeting
  大切な人と過ごしたり、いつもどおりに過ごしたり、それぞれにとってそれぞれのクリスマス。

 12月25日はクリスマス。ごくあたりまえにそう思っていましたが、ウクライナでは例年1月7日だったクリスマスをロシアへの反発もあって今年は12月25日に変更したそうです。

 ところで、国や地域によっては信仰や政治などの影響があったり、人によっては日常の生活の違いがあったにせよ、それぞれにとってなんらかの記念日は大切なのかもしれません。

 高校卒業して約三十年、クリスマスをきっかけに老いた両親と家族と共に過ごした時間は、想い出に残る一日になったような気がします。

初稿 2023/12/25
写真 「想い重ねるクリスマス」
撮影 2023/12/17(東京・KITTE丸の内)

§171「罪と罰」 ドストエフスキー, 1866.

2023-12-22 | Book Reviews
 言葉にはあらかじめ意味が在るからこそ、人が言葉を選んでいると思いがちですが、その人が置かれた環境や状況において、実は言葉がその人に語らせているのかもしれません。

「彼は何かしら奇妙な神秘的なものがあるような気がして、目に見えぬ何ものかの力と符号の存在を感じるのだった」(上巻 p.133)

 ところで、膨大な言葉の数々には"それがそうである"という意味もあれば、"それがそうではない"という意味もあり、ひょっとしたら、言葉が人に語らせているからこそ、正しいこととそうではないことが共存しているのかもしれません。

「きみの内部には、こんなけがらわしさやいやらしさが、まるで正反対の数々の神聖な感情と、いったいどうしていっしよに宿っていられるのだ?」(下巻 p.83)

 空想であれ、観念であれ、理論であれ、そして天国であれ、地獄であっても、それらはすべて存在するのではなく、言葉によって生成されたものであると考えると、その言葉に従って行動した結果のひとつが「罪と罰」というテーマなのかもしれません。

初稿 2023/12/22
写真「地獄の門」オーギュスト・ロダン, 1930-1933.
撮影 2012/08/24(東京・国立西洋美術館)

#82「もうひとつの卒論」

2023-12-16 | Liner Notes
 佐賀でのリモートワークのかたわら、仕事の都合で東京の職場に出社した際に、大学4年生の長女からめずらしく連絡がありました。

「明日夜どんな感じですかー?もしよかったら夜ご飯食べに行こう〜」

 でも、どうやらPCの不具合を直して欲しいとのことでしたが、そんな理由はさておき頼られることはいいもので、内定式も終わって大学生活も充実している話を聴くとホッと胸を撫でおろしてしまいます。

「もう、ほぼ卒論は書いたんだ。一度、パパに読んでほしいんだけど。。」

 国際関係を専攻した彼女の卒論テーマは〈ジェンダー〉。なぜ、そのテーマを選んだのか?世界中で存在する問題や課題をどう捉えているのだろうか?など読みながら話は尽きず、なんの疑いもなくごくあたりまえに男性らしさや女性らしさを意識するとはいえ、そもそも、〈わたし〉らしさとはいったいなにか?を考えるきっかけを与えてくれました。

 ひょっとしたら、「あなたが〈あなた〉であるということはどういうことなのか?」ということを〈わたし〉が両手で耳を澄まして知ることが共感に他ならず、そんな〈あなた〉を知ろうとすることが、〈わたし〉らしさなのかもしれません。※

初稿 2023/12/16
写真 「晨」朝倉響子, 1966.
撮影 2023/04/23(東京・都立図書館)
注釈 ※)α44F「晨」朝倉響子, 1966.

#81「もうひとつの法要」

2023-12-09 | Liner Notes
 生前にお逢いできればと思いながら叶わなかった、妻の祖父の法要に参列しました。

 二十五年の歳月が経つなかで、お経を唱えるご住職も孫に代わり、とかく上人の人生や言葉を紹介するのが当たり前と思っていた法話も様変わりした印象でした。

「生命を終えると浄土に導かれると申しますが、残念ながら私は生きている以上、浄土なるところは正直なところ分かりません」(法話より引用)

 "浄土なるところ"は、私たちがそう考える死後の〈世界〉の一つであれ、そこにもまた〈わたし〉と〈あなた〉と〈それ以外〉が存在するのかもしれません。

 ひょっとしたら、祈りとは、決して分かることのないその〈世界〉へ〈わたし〉を導いてくれるであろうまだ逢ったことのない〈あなた〉を存在させることなのかもしれません。

初稿 2023/12/09
写真 大地と天空の境界にて
撮影 2022/11/19(東京・高尾山)

α50G「バネッサ」 朝倉響子, ---?.

2023-12-02 | Exhibition Reviews
 生まれてから現在までに経験したありとしあらゆる物事や出来事はすべて記憶できないにしても、意識の外側に在るとされる無意識の領域に記録されているという考え方があるそうです。

 写真は、人生の瞬間的な一断面の事実に過ぎないにしても、そんな無限の貯蔵庫のなかから関連する記録を呼び起こして、撮る〈わたし〉と観る〈あなた〉それぞれにとって新たな物語を創るのかもしれません。

 ところで、長い指を絡ませることなく、力を抜いた肩に添わせるその姿は、"ありのままの〈わたし〉"を知った安心感を覗かせているような気がする一方で、解いた髪をしっかりと結い直したその姿からは、"あるがままの〈わたし〉"に自信を持ち始めたような気もします。

 ひょっとしたら、これら一連の作品は、「あなたが〈あなた〉であるとは、どういうことなのか」という物語なのかもしれません。※

初稿 2023/12/02
写真 「バネッサ」朝倉響子, --?.
撮影 2023/01/25(東京・グランドヒル市ヶ谷)
注釈 ※)
α46G「ローリー」 朝倉響子, ---?.
α47G「フラワー」 朝倉響子, ---?.
α48G「リサ」 朝倉響子, ---?.
α49G「スーザン」 朝倉響子, ---?.