Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§107「わたしが・棄てた・女」 遠藤周作, 1972.

2020-09-05 | Book Reviews
 太平洋戦争の爪痕も癒えぬ時代、ある男の手記からよみがえる、人の苦しみや寂しさを放っておけないミツという女性の物語。

「理想の女というものが現代にあるとは誰も信じないが、ぼくは今あの女を聖女だと思っている」

 彼女は、「ファーストレディ」(→§108)においても、決して結ばれぬことは分かりつつも、ある男の寂しさを放っておけずに寄り添う女性として描かれています。おそらくそれは、遠藤周作の数ある小説のモチーフである「永遠の随伴者」が如実に顕れているような気がします。

 苦しみや寂しさは自らが招くこともありますが、自らでは如何ともし難い差別や偏見がもたらす苦しみや寂しさに寄り添うとき、それは絆を超えた人や社会との結びつきが芽生えるのかもしれません。

 その結びつきを、宗教と呼ぶか、連帯と呼ぶかはさておき、等身大の自分を自らが受け入れ、自らの居場所を定め、自らの役割を誠実に果たすとき、ひょっとしたら苦しみや寂しさは棄てることができるような気がします。

初稿 2020/09/05
校正 2021/05/02
写真 上智大学・目白聖母キャンパス 
撮影 2020/08/21 (東京・下落合)