Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§39「ファウスト」 ゲーテ, 1833.

2015-07-24 | Book Reviews
 人の欲望は際限なく拡がり、とどまることを知らないもの。人を惑わし拐かして手にいれたものは自らの手にとどまることなくすりぬけるもの。

 ファウストがメフィストフェレスという悪魔と交わした密約は、自らの究極の欲望が満たされたら彼の魂は永遠に悪魔のもの。悪魔とは森羅万象の原理や法則を司り、森羅万象を自在に変換する力の暗喩。その力は巨大でありながら緻密で且つ不平衡であるがゆえに、使い途を誤るとすべてを完膚なきまでに破壊し尽くする他はない科学技術そのものを示唆しているのかもしれません。

 その巨大な力で海を埋め立て、自らが拡げた国土にたなびく幾千の煙をみたファウストが幾千の家族がひたむきに生きていることの意義を理解した瞬間、彼の魂はメフィストフェレスの手にとどまることなくすりぬけ、永遠に天に召されるという結末。

 世界を支配しうる力を奮う目的が自らのためでなく、誰かのために向かうとき、世界を支配しうる力をもつものが救われることを示唆しているのかもしれません。

初稿 2015/07/24
校正 2020/12/28
写真 ノートルダム大聖堂(尖塔)
撮影 2001/09/09(フランス・パリ)
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