Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

#22「待ちわびる初秋と花薄」

2012-12-26 | Liner Notes
 「花すすき 我こそしたに 思ひしか ほに出でて人に むすばれにけり」(古今和歌集 七四八)

 言葉とは、自らの意志を相手に伝えること。それは口に出すと実現してしまうのではと信じてしまうことなのかもしれません。

 和歌とは、自らの想いを五・七・五・七・七というフレームと季語の組み合わせによって織り成す暗喩としてのモノローグのような気がします。

 必ずしも実現することを期待しないものの、自らの想いだけは伝えたい。祈りや願いとはちょっとだけ違う人間の感情の機微だとと思います。

 平安期に枇杷左大臣が吟じた歌が、千二百年の時を経て語り継がれるのは、ひとえに生きた時代や環境を越えて誰もが抱き共感しうるUser Experienceなのかも知れません。

初稿 2012/12/26
校正 2021/04/07
写真 旧芝離宮恩賜公園, 1924.
撮影 2012/10/09(東京・芝)

#21「初秋にしのぶ冬霞」

2012-12-25 | Liner Notes
 冬霞(ふゆがすみ)とは、風のない寒い朝に景色がぼんやり見える様子を冬の季語として扱う言葉のようです。

 深々と冷えはじめた初秋の夜に、霜になるか霜にならないかの束の間に、朝の光で水蒸気となり、その朝の光が屈折されることでぼんやり見えるのでしょうか。

 様々なレンズやフレームで撮られる景色に加えて、時として偶然がもたらしてくれる自然のレンズなのかも知れません。

初稿 2012/12/25
校正 2021/04/07
写真 御幸通, 1926.
撮影 2012/10/29(東京・丸ノ内)

#20「歴史が織り成す構造 新たなる調和の再生」

2012-12-20 | Liner Notes
 100年前の今日、1912年12月20日に開業した東京駅。

 延べ約75万人が約6年の歳月をかけて築き上げた約340mの長さに横たわるその駅舎は、約930万個の煉瓦と約3,500トンの鉄骨により組み上げられ、約1万本の松の杭が地震から守るべく地面から支えあげたそうです。

 その100年後の現在、松の杭を一本残らず抜きさって、約350基の最新鋭の免震ダンパーに取って代えつつも、組み上げられた鉄骨は基本的に再利用されているそうです。

 全てを棄てて、全てを新たに造るのではなく、守るべきものは守り、より良きものは取り入れる。日本近代建築の先駆者 辰野金吾が描いた日本伝統の朱色に程近い赤煉瓦と西洋伝来の白亜の帯石が織り成す様式の調和を眼にすると、ひとりとして命を落とすことなく保存復元し、その姿を再生したことは、本当に素晴らしいと思います。

初稿 2012/12/20
校正 2021/04/09
写真 東京駅, 1912.
撮影 2012/10/20(東京・丸ノ内)

#19「曲線と直線が織り成す構造 遮る光」

2012-12-19 | Liner Notes
 損保ジャパンビルと新宿センタービル。新宿副都心の一角を成す二つの塔は旧四大財閥のひとつである安田財閥の流れを汲むそうです。

 金融機関コード0001。金融部門に特化した安田財閥は芙蓉グループとして再生し、その中核であった富士銀行は現在のみずほフィナンシャルグループに継承されているそうです。

 芙蓉とは富士を意味し、その山容をイメージした弓なりな弧を描く塔の曲線と空よりも高く伸びようとする塔の直線の間から透き通る光が映し出す光景は高度経済成長期そのものだったかも知れません。

初稿 2012/12/19
校正 2021/04/10
写真 損保ジャパンビル, 1976. 新宿センタービル, 1979.
撮影 2012/10/20(東京・西新宿)

#18「空を凌ぐ構造と調和」

2012-12-18 | Liner Notes
 日本銀行本店の傍に佇む三井本館。藤原道長の末裔の手により四世紀の歴史を持つ日本経済を支えた元財閥の雄です。

 キリシタン大名に南蛮渡来の鉄砲を提供した豪商達とは一線を画し、呉服など特定専門商品を扱い内需を支えた三井越後屋(三越)はよく知られています。

 当時、大坂と江戸の流通の発展に伴い為替取引が発達し、三井越後屋から金融部門を分離した三井両替店は幕府御用から明治政府の為替方となったことで、言わば日本銀行の前身とも称されるそうです。

 金融機関コード0002。三井財閥の中核であり、日本最古の銀行でもある三井銀行が、かつてその拠を置いた建物が日銀本店の傍に佇む三井本館。日本橋は幾多の復興と成長の歴史の基点のひとつかも知れません。

初稿 2012/12/18
校正 2021/04/11
写真 三井本館, 1929.
撮影 2012/10/15(東京・日本橋)