Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

α52H「聖徳太子」 朝倉文夫, 1933.

2024-04-28 | Exhibition Reviews
 横浜・本牧に在る八聖殿には、「八聖」と呼ばれる像が鎮座しています※。それらの像のひとつが朝倉文夫作「聖徳太子」です。

 学生当時はあたりまえにその名で呼んでいましたが、現在では「厩戸皇子(うまやどのみこ)」と呼ばれているものの、いづれの名もまた本名ではないとの説があるそうです。

 ひょっとしたら、何処ぞの何某であるという名よりも、何かを成すためにどのような役割と責任を担ったのかということの方が大切なのかもしれません。

 約千四百年前に存在したとされるその人を誰しもが出会ったことはないにせよ、眼前のその姿は、史実に即した役割と責任を担うに相応しい姿をそこに存在させているような気がします。

初稿 2024/04/28
写真「聖徳太子」 朝倉文夫, 1933.
撮影 2022/03/27(横浜市八聖殿郷土資料館)
※)
§144「ソクラテスの弁明」プラトン, 納富信留 訳, 2012.

α51H「太田道灌」 朝倉文夫, 1956.

2024-04-21 | Exhibition Reviews
 東京国際フォーラムにたたずむ武士の像は、太田道灌が江戸を拓いてから五百年を記念した高度経済成長期のモニュメントだそうです。

 もともと、有楽町にある東京国際フォーラムは旧東京都庁舎跡地の再開発に伴い建設されましたが、このモニュメントだけは都庁が西新宿へ移転後もそのままの姿で現在に至っています。

 その作者は「東洋のロダン」と呼ばれた彫塑家・朝倉文夫、そしてその作風はモデルとなった人物像を介して在るべき姿や理想などを表現した印象を抱かせるような気がします。

 一方で、高度経済成長期後の「失われた二十年」と呼ばれる時代に西新宿へ移転した都庁にたたずむ女性の像のひとつに、朝倉文夫の次女である朝倉響子の作品※があります。父の作風とは異なり、ありのままの姿で、あるがままに臨もうとする印象を抱かせてくれるような気がします。

 親子の作品が新旧の都庁に設置されているのは思わぬめぐり合わせかもしれませんが、ひょっとしたら、設置された社会背景や時代を読み解く糸口になるのかもしれません。

初稿 2024/4/21
写真「太田道灌」 朝倉文夫, 1956.
撮影 2022/12/10(東京国際フォーラム)
※) #92「社会人としての第一歩」
  α20A「マリ」朝倉響子, 1984.

♯92「社会人としての第一歩」

2024-04-13 | Liner Notes
 此の春、社会人一年目の長女が初めての新人研修を受けました。ビジネスマインドやマナーを学ぶなかで、お客様と良い関係を築くには、自らが積極的に動いてコミュニケーションを図ることが大切だと感じたそうです。

 とはいえ、その大切さはわかりつつも、自らの言動がお客様にどのような影響を及ぼすかを考えてしまうと、躊躇してしまうことも感じたそうです。

「なぜ、そう思ったのかをよく考えてごらん。ひょっとしたら、自分がよく思われたいと思う気持ちがある一方で、よく思われなかったらどうしようという不安もあるのかもね」

 お客様にとって関心があろうと思われることに対して日頃から知識を集めつつ、いざお客様と話す機会があれば、ご要望されるであろうことを積極的にお伺いし、お客様にとって最適なものはないだろうかと考えることが大切だと思います。

 社会人二十八年目を迎えたいま、長女との対話で思ったのは、主語を〈わたし〉から〈あなた〉へと変えて考えることが〈わたし〉を知ることなのかもしれず、ひょっとしたら、それが社会人としての第一歩なのかもしれません。

初稿 2024/04/13
写真 「新たな世界に踏み出す第一歩」※
撮影 2022/12/11(東京・西新宿)
注釈 ※)「Mari」朝倉響子, 1984.
参考 α20A「マリ」朝倉響子, 1984.

#91「走るということ」

2024-04-07 | Liner Notes
 次女が所属するバスケ部の遠征試合が増えました。前回は佐賀・唐津、今回は長崎・佐世保へと送迎するかたわら、色々と学ぶことがあります。

 シュートレンジに近づく前にボールを奪われた時の監督が発した言葉。

「まわりが走らないからでしょ!」

 たしかに、どんなに優れた選手であっても、たったひとりではそこに辿り着けないこともあるし、監督もやみくもに走ることを求めていないと思います。

「あなたが、そこにいて何ができるの?」

 とはいえ、勝ち負けにこだわる前に、仲間をそこでひとりにさせることなく、自らがチームのために何ができるのかを考えて、そこに駆けつけるということが大切なんだと思います。

追伸 桜花もいつのまにか葉桜に。子供の成長もまた、見過ごすことなく、しっかりと見ておきたいと思います。

初稿 2024/04/07
写真「芽吹いていた花もいつしか新緑へ」
撮影 2024/04/07(佐賀・多布施川)

♪63「離れていても交わる世界」

2024-04-01 | Season's Greeting
 老いたふたりの〈世界〉に寄り添うべく故郷へ引越してからちょうど一年になりますが、引越後三日目から始まった父の入院と在宅介護に加えて、つい先日、母も一時的に入院することになりました。

 ちょうど一年という時期もそうですが、担当医の方と話すなかで、なにかしら示し合わせたかのような似かよった事象もあって、なぜかしら不思議さも感じました。

 ところで、桜の花が一年に一度だけ芽吹くように、ひょっとしたら、わたしたちの眼には見えぬなんらかの働きがそこに在るのやもしれません。

「早よ、逢いたいね」

 いま、それぞれにそれぞれの場所に居ながらも、元気そうに笑みを蓄えながらお互いに同じ言葉を語る姿を垣間見ると、そんなふたりだけの〈世界〉のありように少しだけ交われたような気がします。

初稿 2024/04/01
写真 父が学んだ旧校舎の傍に咲く桜
撮影 2023/04/01(佐賀・鯱の門)