Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

#87「もうひとつの確定申告」

2024-02-25 | Liner Notes
 佐賀へ引越してもうすぐ一年が経ちますが、住宅取得に伴う諸手続きもあって、先日初めての確定申告会場へ。

 最近は、e-Taxなるネット手続きもあるそうですが、自信がなく案の定、会場にて提出すべき書類が足らないことを指摘され、新築当時に建築会社でご担当いただいた方へ約一年振りに連絡してしまうはめに。

「あ、いいですよ。いまからお持ちしますよ」

 会場が閉まる5分前、無事に手続きを完了して書類を持参していただいたご担当の方にお礼を伝え、帰途に着く妻との会話から。

「あっ、そういえば一年前の今日は新居の引渡日だったね。あのとき社会人一年目の彼にとっても、わたしたちにとっても初めての出来事だったしね。ひょっとして今日もまた、あなたが好きな『もうひとつの物語』になるかもね」

 準備不足を反省しながら、こころよく対応していただいた彼に感謝しつつ、そんな思わぬめぐり合わせを通じて、〈わたし〉を分かってくれている妻にもこころから感謝です。

初稿 2024/02/25
写真 「夏の女」※ 武藤三男, 1980.
※)会場隣で見つけた彫刻ですが、これもまた思わぬめぐり合わせなのかもしれません。
撮影 2024/02/24(佐賀・勤労者体育センター)

#86「もうひとつの食事会」

2024-02-18 | Liner Notes
 先日、帰省していた長女と祖母を連れて一緒にお昼ご飯を食べる機会がありました。

 老いた母にとっては昔懐かしいお店が少なくなっているなか、遠く離れて生活する孫との外食はせっかくの機会でもありました。

「さぁ、どこ行こうかね。そういえば佐賀ん街もちゃんぽんの春駒が閉店したしね。せっかくだから、カレーの文雅はどうかな」

 1958年創業の「白山文雅」は、欧風カレーの伝統を受け継ぎつつ、たしかに一口目で舌を唸らせるこだわりを感じさせるカレー専門店です。此処もまた、あたかも重々しく落ち着いた旧きよき時代を感じさせる別世界にいるかのようです。

 「あれっ、ライスがこんなに少ないの?」

お皿にはスプーン一杯ほどのライスしかありませんでしたが、実は食べ放題らしく温かいライスが冷めないうちに召し上がってほしいという思いからだそうです。

 親から子へ、そして孫へと受け継がれるものは遺伝子とか容姿や性格ばかりでなく、一緒に過ごした場所であったり、そこで味わった食事や会話もまたそうなのかもしれません。

初稿 2024/02/18
写真「白山文雅」
撮影 2024/01/14(佐賀・白山)

#85「もうひとつの音楽会」

2024-02-11 | Liner Notes
 長女の就職に伴う引越の準備もあって東京に来てくれた妻と、せっかくの機会なので一度は連れて行きたいと思っていたお気に入りの隠れ家的な場所を訪れました。

 1926年創業の名曲喫茶「ライオン」は、壁一面のスピーカーから奏でるクラシック音楽を堪能できる喫茶店です。その壁一枚を隔てた渋谷・道玄坂の賑わいとは全く異なり、あたかも重々しく落ち着いた旧きよき時代を感じさせる別世界にいるかのようです。

 ところで、あらかじめ意味が存在する言葉は感じ方の違いで気まずくなることもありますが、音楽には意味というよりも、同じ方向に向かわせる力が存在するような気がします。

 仮に世界が〈わたし〉と〈あなた〉と〈それ以外〉だとすると、それがそうであると分かるには、それがそうではないことを知ることのような気がします。

 ひょっとしたら、わたしが〈わたし〉であるということを分かるには、同じ場所で同じ方向を向く〈あなた〉を知ることなのかもしれません。

初稿 2024/02/11
写真「名曲喫茶 ライオン」
撮影 2024/02/03(東京・渋谷)

#84「もうひとつの事前課題」

2024-02-04 | Liner Notes
 此の春、社会人一年生になる長女のもとへ就職先から入社前の事前課題として一冊の本が届きました。

 例に漏れず、長女はまとめたレポートを読んでほしいとのことで、私もその「7つの習慣」なる本を読んでみました。

 とかく、処世術と捉えると方法論に陥りがちですが、名声や肩書きといった何処ぞの何某ではなく、まずはじめに"私が〈わたし〉であるということはどういうことなのか"と考えることが大切のような気がします。

 また、まったく分からないはずの社会人生活にも関わらず、あたかもあたりまえの素振りで分かっているかのように振る舞おうとすると、まわりからどう思われているかとか、失敗しないようにとなりがちな気もします。

 ひょっとしたら、ありのままの〈わたし〉をいたわり、あるがままに歩もうとすることが主体的であることかもしれず、〈あなた〉を分かろうとすることによって、〈わたし〉のことを分かってもらえるのかもしれません。

 これから結婚など人生の様々なステージで自らの責任で判断していく必要がありますが、例に漏れず事前課題があれば相談してほしいと思います。

初稿 2024/02/04
写真 「晨」朝倉響子, 1966.
撮影 2023/04/23(東京・都立図書館)
出典「7つの習慣」スティーブン・R・コヴィー, 1996.