Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

#94「いづれかの道のとある番地」

2024-05-19 | Liner Notes
 大学三年生の長男が就活セミナーに参加するために東京へ訪ねてきた折、その前日に行ってみたい処があるから一緒に行こうと誘われたのが、いわゆるシェア型書店でした。

 本棚の一画を出版社や個人らが棚主として借り受けて、新書や自費出版本だけでなく、自らの蔵書を古本として販売したり、はたまた自らの蔵書の一部を非売品として展示するなど、様々な棚主がそれぞれの思うところをその棚に存在させているかのようです。
 
 「X通りのY番地」

貸付ける本棚の区画毎にそんな意味のラベルが貼られ、碁盤の目のような街区を摸したその本棚そのものは、もうひとつの〈世界〉なのかもしれません。

 長男の後姿を眺めながら、自らが歩もうとする道が歩むべき道であるかは分からないにせよ、歩み始めると自ずから何処かに至るはずで、それが何処であろうとも其処こそが〈あなた〉の居場所としての〈世界〉であるような気がします。

初稿 2024/05/19
写真 PASSAGE by ALL REVIEWS
撮影 2024/05/18(東京・神田神保町)

#93「二年前の君と二年後の君達へ」

2024-05-13 | Liner Notes
 少し前の話ですが、ゴールデンウィークに社会人一年目の長女が東京から福岡へ飛行機で、大学三年生の長男が京都から新鳥栖へ新幹線で帰省しました。

 社会人一年目の長女は、帰省してほっとしたせいか微笑みながらも実感している社会人の大変さを垣間見せる一方で、大学三年生の長男はそんな姉をよそ見に、来たるべき就職活動の不安や心配を覗かせているような気がしました。

 ところで、長女が二年前のインターン※1で訪れた場所を再び家族で訪れてみました。干満の差が最大6mという有明海から忽然と姿を現すその道は、まさに「月の引力が見える町」であるかのようでした。

 ひょっとしたら、現在から歩む道が誰であれ分からないにせよ、そこには必ずなんらかの道標があるはずで、なにがあろうとも前を向いて眼前に拡がる世界をしっかりと見て、それがいったいなんであるかを考えることが大切なのかもしれません。

 それぞれの帰省経路は違うにせよ、長女と長男が帰途につく際、車で福岡空港と新鳥栖駅まで見送りましたが、しっかりと前を向いてそれぞれの道を歩んで欲しいと改めて思いました。

追伸 中学二年生の次女へもまた、私と妻のそんな思いが詰まった本※2を手渡しましたが、はたして読んでくれるかな。

初稿 2024/05/13
写真 海中道路
撮影 2022/08/11(佐賀・太良)
※1)#73「もうひとつのインターンシップ」
※2)§137「14歳の君へ」池田晶子, 2006.