Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§146「考えるヒント」 小林秀雄, 1974.

2022-04-23 | Book Reviews
 高校時代に現代文の授業で読んでみたものの、全く歯が立たず、考えるヒントにすら当時は辿り着けませんでした。

 長男が薦めてくれた池田晶子の本をきっかけに約三十年振りに読んでみると、目に見えることを当たり前のように思い込んで、あたかも分かったつもりになっていないだろうかという、考えるヒントを与えてくれたような気がします。

「言葉の力によって抑制しようと努めたのは、外から目に飛び込んでくる、あの誰でも知っている現実感に他ならない」(35頁)

 一方、誰かからどう思われているのかとか、とにかくなんとか結果を出して評価されたいとか、誰しも思うかもしれません。

「能率的に考えることが、合理的に考えることだと思い違いをしているように思われるからだ。当人は考えているつもりだが、実は考える手間を省いている」(56頁)

 ひょっとして、そんな思い込みに頼って生きる方が楽なことが多いかもしれませんが、自分が誰であろうとも生きるとは、そんな思い込みから自由になれる言葉の力が必要なような気がします。

初稿 2022/04/23
写真「考える人」オーギュスト・ロダン, 1926.
撮影 2018/11/03(東京・国立西洋美術館)

∫44「東京 建築 十選」〈邸宅編〉

2022-04-17 | Architecture
 明治後期から昭和初期の時代は、日本が西欧化から近代化へと変貌した黎明期。

 宣教師の住居であったり、政府が雇用した「お抱え外国人」と呼ばれた技術者が設計した邸宅(下記①, ②, ④, ⑤参照)などを通じて、当時の生活様式や文化などをその建築様式に溶け込ませながら、今もなおその面影を今に伝えてくれています。

 ところで、「お抱え外国人」の役割は官公庁建築を担う各省庁の営繕課に引き継がれ(下記③, ⑥〜⑩参照)、当時の設計思想や価値観もまた、現代の設計コンサルタントや建設会社にも脈々と受け継がれているような気がします。

 ひょっとして、建築様式とは機能性や合理性のみならず、時代や社会の影響を受けた思想や価値観なるものも表現しているのかもしれません。

初稿 2022/04/17
写真「東京 建築 十選」〈邸宅編〉
 ※○建築名(場所)設計, 竣工年度.
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①旧岩崎邸(東京・上野)
 ジョサイア・コンドル, 1896.
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②旧宣教師館(東京・雑司が谷)
 マッケーレブ, 1907.
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③旧竹田宮邸洋館(東京・高輪)
 旧宮内省内匠寮(片山東熊), 1911.
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④綱町三井倶楽部(東京・三田)
 ジョサイア・コンドル, 1913
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⑤旧古河邸(東京・駒込)
 ジョサイア・コンドル, 1917.
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⑥鳩山会館(東京・音羽)
 岡田信一郎, 1924.
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⑦日立目白クラブ(東京・落合)
 旧宮内省内匠寮(森泰治), 1928.
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⑧旧前田侯爵亭(東京・駒場)
 旧宮内省内匠寮(高橋貞太郎), 1929.
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⑨旧李王家東京邸(東京・紀尾井町)
 旧宮内省内匠寮(北村耕造), 1930.
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⑩旧朝香宮邸(東京・白金台)
 旧宮内省内匠寮(権藤要吉), 1933.
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§145「星の王子さま」 サン=テグジュペリ, 1943.

2022-04-08 | Book Reviews
 「この本は、昔子どもだったころのその人に、ささげるということにしたい。おとなだって、はじめはみんな子どもだったのだから」(p.5)

 砂漠に不時着した飛行機乗りの少年と星からやってきた王子さまとの出逢いを綴った物語。
 
 その王子さまが地球に来る前に訪れた六つの星それぞれには、たった一人の大人だけが棲んでいて、たった一人にも関わらず、誰かからどう思われるかであったり、誰かに競り勝とうとしたり、自らの役割だけを頑なに守ろうとしていました。

 ひょっとしたら、その王子さまの視点は、わたしたち大人一人ひとりがいつのまにか気づかずに身につけてしまった世界観を示唆しているのかもしれません。

「こうして今見えているものも、表面の部分でしかないんだ。いちばん大事なものは、目には見えない」(p.117)

 ファンタジーや童話に過ぎないと言えばそれまでかもしれませんが、世界とは自らが創るものであり、その為には自分だけの秘密の物語が必要なような気がします。

初稿 2022/04/08
写真 中秋の名月
撮影 2015/09/27(兵庫・西宮)

♪53「さくら花」

2022-04-01 | Season's Greeting
 ごく当たり前に、一年が三六五日であると知っていますが、月の満ち欠けによって一日を数える太陰暦においては必ずしもそうとは限らないそうです。

 月の公転周期は約三五四日、その約十日ほどのずれが幾年か重なると、暦と季節感も大きくずれるので幾年に一度は閏月を設けていたそうです。

 「さくら花 春くははれる 年だにも 人の心に飽かれやはせぬ」(伊勢, 古今和歌集 六一)

 春が加わるとは、一年に三月が二度めぐる閏月があること。人が暦のうえでいかに春を長くしても、目の前で咲き誇る桜は暦と同じようにはならず、その儚さゆえに美しさなるものをより一層感じてしまうのかもしれません。

初稿 2022/04/01
写真 琵琶湖疏水の流れに咲き誇るさくら花
撮影 2017/04/11(滋賀・大津)