Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

α46G「ローリー」 朝倉響子, ---?.

2023-10-28 | Exhibition Reviews
 朝倉響子の作品には全身を現したもの以外にも、身体の一部を現したものもあります。

 全身を現したものは、それ自体が実在するかのような印象を受けますが、身体の一部を現したものは実在しているというよりは、それを観る〈わたし〉がそこになにかを存在させているような気がします。

 長い指を絡めて肩肘を張るその姿は、"〈わたし〉は〈あなた〉とは違うのよ"と自信を覗かせているような気がする一方で、目深に被った帽子からは、そんな〈わたし〉を〈あなた〉から隠そうとしているような気もします。

 ひょっとしたら、「あなたが〈あなた〉であるとは、どういうことなのか」と〈わたし〉に問いかけているのかもしれません。

初稿 2023/10/28
写真 「ローリー」朝倉響子, --?.
撮影 2023/02/18(東京・文京シビックセンター)

§170「地下室の手記」ドストエフスキー, 1864.

2023-10-22 | Book Reviews
 「地下室」とは、誰しもの心のうちに潜むなにがしかの暗喩なのかもしれません。

「自分にさえ打ちあけるのを恐れるようなこともあり、しかも、そういうことは、どんなにきちんとした人の心にも、かなりの量、積もりたまっているものなのだ」(p.61)

 にもかかわらず、生成AIを万能であるかのように信じてしまい、効率性を享受していたつもりが、いつのまにか考えることを効率化してしまいそうな現代を予言しているような気がします。

「いつかはぼくらのいわゆる自由意志の法則も発見されるわけで、恣欲やら判断やらがほんとうに全部計算されつくしてしまうかもしれない」(p.43)

 そういう世界観を持つ〈わたし〉が、それがそうであるということを分かるには、それがそうではないということを分かる必要があるのかもしれません。

 〈わたし〉が〈わたし〉であるということはどういうことなのか?その問いを手記という形で深く物語ろうとしたような気がします。

「ぼくの人生においてぎりぎりのところまでつきつめてみただけの話なのだ」(p.205)

初稿 2023/10/22
写真「---?」朝倉響子, ---.
撮影 2023/03/12

#80「もうひとつの新人戦」

2023-10-15 | Liner Notes
 佐賀へ引越して約半年ほどが過ぎ、バスケ部に入った中学生の次女は同級生の友達もできて、三年生卒部後はじめての新人戦を迎えました。

 小学生からミニバスを経験しているレギュラーメンバーの同級生とはまだまだ差があるようにも見えますが、それとなく観ていると彼女なりの努力の跡もうかがわれるので、差というよりは違いなんだなと思います。

 ところで、佐賀県を本拠地とするプロチームは3つあり、バスケットボールB1リーグの佐賀バルーナーズもそのひとつ。来年開催の国スポとあいまって新設したアリーナをホームグラウンドとして多くの観客を魅了しているのを見ると、約三十年前の高校時代には考えられなかった世界です。

 新人戦で優勝したらそのアリーナでバルーナーズ U-15とのエキシビションマッチができるとは聞いてはいましたが、本当にそうなるとは思ってもみませんでした。

 試合には出場できなかったものの、トップリーグの舞台に立った経験はきっと彼女にとって新しい世界が観えたと思います。

初稿 2023/10/15
写真 エキシビションマッチ
撮影 2023/10/14(佐賀・SAGAアリーナ)

α45F「翔」朝倉響子, 1981.

2023-10-08 | Exhibition Reviews
 新緑のはじけるようなみずみずしさのなかに、真夏の太陽に照らされて躍動する生命力に気づく「夏」という世界※1

 一方で、まだ見ぬ"あした"に陽の光を浴びながら顔を向けて、ありのままの姿で立ちあがり、耳を澄ませることで〈わたし〉が夜明けを告げる「晨(あした)」という世界※2

 とある駅のフォームへ続く階段のそばにたたずむ両腕を広げた女性像の名は「翔」。その読み方は"かける"、その意味は"翼を広げて大空をかけめぐる"ということだそうです。

 「夏」から「晨(あした)」、そして「翔(かける)」へと続く世界は、〈わたし〉が宇宙や自然に潜む目には見えぬ大いなる力の存在に気づきつつも、自らの無限の可能性にもまた気づくような物語なのかもしれません。

初稿 2023/10/08
写真 「翔」朝倉響子, 1981.
撮影 2023/04/23(千葉・佐倉)
注釈
※1)α41F「夏」朝倉響子, 1984.
※2)α42F「晨」朝倉響子, 1974.
  α43F「晨」朝倉響子, 1982.
  α44F「晨」朝倉響子, 1966.