例えば、どんな頑強な車を造っても「この車は頑丈だから」とでこぼこ道を猛スピードで突っ走るとトンデモナイ衝撃が車を、そして乗っている人をいたぶる事でしょう。
或いは「まっすぐ進んでいきたい所」に曲がる事をしないで行くと大きなビルや他の車にぶつかります。
変らない事。
難しい事です。
しかし、柔軟な身体、柔軟なサスペンションを持っていれば車は大きな衝撃を吸収してまっすぐ進めます。
途中の道で上手に道を選んで蛇行して、行きたかったところにたどり着いた時には大きな喜びがあると思います。
昨日は改めてそんなことを考えました。
オリヴィエ.クリュッグ。
シャンパンの名門中の名門の6代目当主。
彼は1990年から2年間、日本で「丁稚奉公」していました。私のホテル時代の一番忙しかった「バブル期」の終わりの当りです。可愛い顔立ちの優しい男でした。
その頃あたりの暫くの間、クリュッグの合言葉は「クリュッグはクリュッグである。」というある意味孤高な姿勢です。「シャンパンではない。クリュッグなんだ」とも言い切っていました。
オリヴィエが言っていたわけではありません。
しかし、確かに当時のクリュッグは孤高でしたし、他のメゾンとは一線を画していましたね。
昨日のブログの記事で言うとNMですが、「大手の大量生産品」ではなく「クリュッグ」だったのです。
で、あいも変らずに170年間にわたり、一定の品質を保ち続けます。
一つのキュヴェを造るのに2000回にテイスティングをするといいます。
大変な苦労です。
オリヴィエは言います。
「毎年、葡萄が違うから全く同じものは造れない。だから葡萄品種のパーセンテージなど関係ない。むしろ同じな訳がない。」「同じ様な空の絵を書くのに同じでない絵具で書くのだから、限りないブレンドが必要だ」
つまり、同じである、変わらない、という事は「変わり続ける」という事でもあります。
昨日もお昼をご一緒しました。
丁稚奉公の頃から「当主の顔」になっていますが、彼は言いました。
「クリュッグはシャンパンの一つです」「昔の様に傲慢に言っている場合ではない」
あれだけの名門の当主が殊勝なセリフ。
素敵ですね。
クリスマスには変らない男の造ったグランドキュヴェを使おうかな、なんて思わせるランチでした。