HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

アッパーミドルは個を目指すべき。

2015-07-22 08:40:00 | Weblog
 ワールドやTSIホールディングスにおけるブランドリストラや店舗の大量閉鎖、オンワードHDのラオックスとの連携、ファイブフォックスの売上げ急落など、このところNBアパレルの中でアッパーミドルクラスの苦戦ぶりが目立っている。

 要因にはユニクロなど低価格業態の躍進、ザラやH&Mといったファストファッションの台頭、お客のファッション離れなど、いろいろ上げられている。しかし、筆者は根本原因を忘れてはいけないと思う。

 それは企画力の低下や原価率の圧縮で、「商品力」が落ちているということである。ここにメスを入れない限り、ネットなどの販路を整備したくらいで、こうしたアパレルが浮上することなど、あり得ないと思う。

 一般メディアはそこまで深く解説していないが、従来、ワールドは専門店系、オンワード、TSIとなる前の東京スタイルは共に百貨店系のアパレル(卸)だった。自社ブランドをワールドは全国各地の専門店に卸し、オンワード樫山や東京スタイルは百貨店のハコで販売した。

 TSIのもう一社、サンエーインターナショナルはキャラクターブランド系、ファイブフォックスはデザイナーズブランド系。

 この両社は駅ビルやファッションビルを中心に直営展開するSPA(製造小売業)の道を歩み、ワールドやオンワードも取引先の売上げ不振から追随していった。

 SPAシフトは、卸のような年2回の展示会営業、受注生産では、目紛しく変わるトレンドや嗜好の変化に対応できなくなったからだ。直営店にとって、シーズン半年前に見た商品を半年先に売れる自信がなくなったこともあるだろう。

 言い換えれば、SPAとは川下である小売りの店頭で売れる商品情報を川上の企画・デザイン部門にリアルタイムでフィードバックし、売れ筋の商品を素早く店頭に送り込むために導入したシステムなのである。

 そうすれば、できる限り販売や機会のロスを避けられ、効率よく売上げを上げられると考えたからだ。

 しかも、DCブランドブームの終焉、バブルの崩壊で、ファッションスタイルがカジュアル化すると、ミリ単位で変わる着心地やカチッとしたスタイリングのアイテムは、あまり求められなくなった。

 それよりも価格が安くて見映えが良く、そこそこのネームバリュがあれば十分満足というお客が大半を占めるようになってきたのである。

 それはアパレル側が素材開発やパターン製作に深く関わる必要がないことを意味する。つまりは企画デザイン、仕様開発から生地や付属品の調達、生産・管理、検品・物流まで、オール外注でも事足りるようになった。

 もう製造メーカーである必要はないってことである。

 生地の調達から生産、物流までのネットワークを持つ商社を間にかませると、アパレルの要望に十分対応してくれるし、OEM業者はブランドタグはそのままに布帛以外のニットやレザーまで、またODM業者はデザインそのものから、請け負ってくれる。

 さらに振り屋というアイテムごとに得意な工場を紹介してくれる業者まで出現した。

 アパレルメーカーとしては、ブランドさえもっていれば、後はスタイル画やイメージマップで、企画デザインの方向性や意図、商品の納期や販売価格を伝えるだけで、商品のサンプルが上がって来る。

 それを直営店やFCの店長、販売スタッフと一緒になって、売れるか売れないか、シーズンのMD計画にそって見せる商品、売る商品など検討し修正をかけて、発注をGoすればいいわけだ。

 大手アパレルと言えど、もはやこうしたシステムは当たり前。それがファッション業界の実態なのである。

 自社のスタッフをこき使って働かせ、労務管理上の問題が生じることもない。アパレルメーカーにとっては、ネットワークを持つ商社、OEMやODMの業者を介在させた方が商品づくりのプロセスは円滑に行く。

 またそれらがSPAが効率よく売上げをあげていく上で、適時、適所、適価、適品を投入するために不可欠な「スピード」も提供してくれる。

 ところが、商社、OEMやODMの業者は、クリエイティブ集団ではない。大半は手持ちのパターンにアパレルの企画を載っけるだけである。

 当然、アパレル側が企画デザインを安易にとらえ、外注任せにするだけでは、ブランドタグが違うだけで、どこかで似たようなものが生まれていく。

 大手通販サイトを見ると、一目瞭然だ。ブランドは違うけど、似たような企画、素材感、デザインが並んでいる。そりゃそうだ。アパレルが安易に業者に丸投げすれば、商品が同じ様になっていくのは、当たり前だからである。

 当然、商品を買うお客の大半は、企画、素材感、デザインが同じで、ブランド間の差別化が図られていないのであれば、少しでも安い方に流れていく。これが価格競争を助長してしまう。これもファッション業界の必然である。

 問題はそれだけではない。ユニクロやファストファッションといった低価格業態によって、アッパーミドルは値下げ圧力を受けてしまう。経営者が「うちとはターゲットが違うから」と言っても。そんなものは気休めにしかならない。

 経営者がいくらブランド力だの、店頭での接客サービスだの、差別化を口にしても、昨今のお客にとって、商品を購入する最大条件が価格であるという必然性は変えようがない。経営者もそれをわかっているから、価格で勝負せざるを得なくなっていく。

 と言っても、ブランドロイヤルティは守らなければならないから、販売価格は極端に下げられない。また人件費、家賃や広告宣伝費などのコストカットにも限界がある。

 ところが、業者を介在させている分、「中間コスト」はかかっているのに、荒利は十分に確保したい。全くわがままな経営政策が頭をもたげる。

 となると、行きつくのは素材や縫製といった「原価」になる。すっかりカジュアル化したマーケットを見ると、お客がさほど商品にこだわらないのであれば、経営者が「原価率を下げることは構わない」と判断するのは当然だ。

 DCブランド世代の筆者にとって、ブーム終焉し、さらにバブルが崩壊すると、商品レベルが格段に下がり、品質が劣化したのはファイブフォックスだと思う。

 郊外業態のコムサイズムは低価格業態だからしょうがないとしても、アッパーのボナチョルナータでさえ、往年のコムサデモードに比べると、クオリティは見る影もない。

 ワールドにしても、卸時代と今のSPAを比べると、商品の質は言わずもがなである。リザの売場で際立っていた商品を見て、触ったことのある人間からすれば、アンタイトルもインディヴィもリフレクトも、品質の低下は否めない。

 なでしこのオフィシャルスーツもワールドだった。ドイツやイタリアの男子チームのスーツと比較してしまうと見劣りする。契約だから仕方ない部分を割り引いても、サッカー強豪国と見比べると、選手のスーツさえクオリティは遠く及ばない。

 ファッション業界では、2008年のリーマンショック以降、アパレルの自社開発ブランドの原価率は2.5ポイント低下したと言われる。OEM商品ではさらに5ポイントほどダウンしているのは間違いない。

 以前、百貨店卸の原価率は40%前後あって、そこそこのクオリティをキープしていた。ところが、バブル崩壊後、さらにリーマンショック以降、百貨店は売上げの減少に歯止めがかからないため、荒利益をかさ上げして埋めようとして、アパレルに歩率の積み上げを求めていった。

 百貨店SPAはそれに応えるため、中間コストを吸収すべく原価を切り下げた。バブル崩壊後に33~35%くらいあった原価は、リーマンショック後には25%程度まで落ち込んでいると言われる。

 それは「中国生産に切り替えたからだ」と言ったところで、生地の質も落ちているのだから、言い訳にはならない。

 一方、メディアの中には、アッパーミドルのアパレルが不振を脱却するには、インターネット通販がカギになるというような論調もある。

 ところが、アパレル側がネット通販は販売員の人件費や店舗家賃がかからない分、原価率を上げて上質な商品を提供してくれるならまだしも、実際はそうではない。

 人件費や家賃をといったコストを削減することによって、アパレル側が利益を上げるだけしか考えていない面も見られる。それでは抜本的な解決策にはならないのである。

 またSPAで商品を量産し、店頭の販売が不振だから、在庫を消化するシステムとしてネット通販を機能させるのであれば、それはキャッシュフローを進めるためのアウトレット機能に過ぎない。

 今はブランド通販の「安さ」に引かれ、お客はネットで購入しているのかもしない。それは現物を手に取らない仮想状態だから、ある種の錯覚ビジネスに引き込まれているとも言える。気に入らなければ、ネットオークションで捌けばいいという心理も働くだろう。

 しかし、そもそもの製造原価が低いのだから、決してクオリティの高い商品が安く購入できているわけではない。現状では玉石混淆のネット通販業界だが、お客がそうした「まやかし」に気づいていけば、頭打ちになるのは目に見えている。

 アッパーミドルのアパレルが百貨店やファッションビルで苦戦しているのは、SPA化に頼りすぎて原価率を下げ、それが品質の劣化を招いたことに尽きるのだ。

 ただ、アッパーミドルと言っても、厳密な定義があるわけではない。メジャーなブランドアパレルを対象にプライス、いわゆる「売価」で決めつけているだけに過ぎないと思う。 

 販売価格には、外注先の手間賃など商品の価値を左右しない「中間コスト」が載っているわけで、厳密に売価から原価率を計算してみれば、ユニクロ以下ってところも少なくないと感じる。

 つまり、原価を圧縮すれば、ユニクロより質は低くなるのに、価格が高いままなら、いくらブランドを押し出しても売れるはずがないのである。

 現状、アパレルの経営者からは、ブランドのリストラや店舗閉鎖など、マイナスの政策しか聞こえてこない。でも、まず先に取り組むべきは、商品のデリバリーにおけるロスを少なくすることだ。

 そのための適正な在庫量を見極め、コストを低下させなければならない。あの紋切り型で売れもしないような店頭在庫に手を付けるのが先なのである。

 店頭で売れなければネット通販で、さらにアウトレットで消化すればいいなんて、素人レベルの単純発想で、不振や低迷を脱却できるはずもない。

 個人的見解を言わせてもらうと、商品のクオリティを上げること。もう安い商品はいくらでもある。

 ただ、今の原価率で、クオリティの高い商品ができるはずはない。だからロスを抑えコストを低減できれば、その分を原価を載せることができ、商品の質は上げられる。

 要は生地のレベルや加工始末を質を上げるべきなのである。さらに服をつくりたいデザイナーを抱えれば、隅々のディテールにもこだわれるし、ユニクロなどとの差別化も図られる。縫製は海外の技術力も上がっているので、それで十分だ。

 高い技術力をもつ国内工場を使いたいのであれば、工場側が求める工賃を受入れ、その分をコストを上乗せした「適正価格」で、販売するべきなのである。

 商品の価値を高めるには、自社にデザインと生産管理の部署を設け、素材の開発調達に力を発揮するテキスタイルコンバーターをパートナーとして加えることも必要だ。

 つまり、アッパーミドルのアパレルはリストラ策で規模を縮小させるなら、専門店系アパレルのような工場直発注型にシフトするのも一手ではないかということである。

 成熟した日本のファッションマーケットで、マスを攻略するのはグローバルSPAと低価格の量販チェーンで十分ではないのだろうか。

 残るアパレルは、単品企画を軸にしたMD構成で、クオリティアップによる差別化を図る。小刻みに隙間を狙う真の専門店戦略である。

 あとはお客さんが自由に選んでコーディネートすれば良いだけ。低価格やプレーン過ぎた商品に辟易している層もいるはず。アッパーミドルのアパレルが苦戦しているのは、そうした層が離れていったことも一因であるとすれば、なおさらである。

 アッパミーミドルの規模が縮小均衡し、個性的なアパレルが競い始めると、ファッション業界も少しは活性化するのではないだろうか。

 少なくとも専門店系マンションアパレル出身の筆者は、仕事では量を追わず、企画デザインと素資材で勝負できるレディスに携わっていきたい。

 ただ、メンズについてはよくわからないので、自分が気に入るアイテムを自分でデザインするだけ。とても量産する自信もないので、サンプル生産程度のものを作るしかない。この夏は、来春に着るレザージャケットを作ってみようと思っている。

 もちろん、上質な革を調達し、自らデザイン、パターン製作まではやっていくつもりだ。さて、中間コストを省いた工場ダイレクトなメンズアイテムとは、どんなクオリティになるのか。まず隗より始めよということ。出来上がりが楽しみである。
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