HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

SPAに頼らないMDに期待。

2015-07-01 13:29:51 | Weblog
 7月に入った。博多の街は祇園入りで、各地域では一斉に飾り山づくりが始まった。各流れの当番はお汐井とりに出かけ、ご神入れが終わると舁き山の管理と、15日までのぼせの日々が続く。

 わが大黒流れには櫛田入り、追い山では是非、トップを飾ってほしいものである。

 山笠の話はこのくらいにして本題に入るとしよう。博多駅前の飾り山と並んで、その風貌を表したのが、福岡では地域5番店となる百貨店、「マルイ博多」。日本郵便が運営する再開発ビルの1階~7階に出店する売場面積1万5,000平方メートルの店舗である。

 マルイと言えば、われわれの世代にとってはパルコや東急ハンズと並んで親しみのある業態だ。百貨店ではあるが、対象がヤングであったため、クレジット事業を強化し分割でファッションを購入できるようにしていた。まさに「好きで、いっしょで。」だ。

 80年代のDCブランドブームでは、ファッションビルと並んでマルイがその牽引役を担ったといって間違いない。その後、90年代には郊外店ではファミリーをターゲットに、食品まで品揃えするなどフルラインに舵を切った。

 だが、都心の店舗ではヤング狙い重視の戦略は変わらなかった。ファッション衣料が中心で、成熟した大人を捉えるまでにいかず、苦戦していたように感じていた。実際、筆者もこの頃からほとんど利用しなくなった。

 それを変えたのが2007年に開店した有楽町マルイではなかっただろうか。

 ここではMDがファッション衣料以外にも広げられ、従来は商品が詰め込まれて圧迫感のあった売場がずいぶん開放的になった。什器や棚などもマルイオリジナルで作られ、通路に置かれた椅子にまでカネがかかっている印象を受けた。

 靴売場で試着する際にちょっと腰掛けるソファでさえ、座り心地が重視されるなど、とにかく顧客満足を得ようとマルイの本気さが伝わってきたのである。というか、百貨店経営はそこまでの次元で勝負する時代に入ったとの印象だった。

 マルイが有楽町店で、こうした店づくりに生かしたのが、「お客の声」。マーケティングリサーチと言うと、「それくらい他社もやっている」と突っ込まれそうだが、マルイが断行したのは、「真摯にお客の声を聞く」ということである。

 マルイサイドがわかっていそうで、本当はわかっていなかったこと。また、わかっていても、改善や修正に二の足を踏んでいたことなど、百貨店経営に対し何の利害もないお客からのストレートな「意見」に耳を傾けたのである。

 筆者もそうだが、お客がマルイを利用しなくなった最大の理由は、DCブランドブームが去り、ファッションがカジュアル化、普遍化したのに、依然として服偏重のMDに固執していたことである。

 カッコいい服を着てきたお客にとっては、売場に並ぶ商品に何の面白みを感じられなければ、マルイに買いに行く必要もない。不便でもブランドの旗艦店の方に足が向くはずである。お客の声も大半は「マルイって服だけじゃんか」だったと思う。

 とすれば、マルイが進むべきは、衣料一辺倒からの脱却でしかなかったということだ。有楽町のように大人が闊歩する成熟した市場では、客層の目も肥えている。百貨店系アパレルの商品レベルや感度で満足するはずは無い。

 マルイはファッションという切り口を広げ、雑貨や食材などまでのライフスタイルで捉えることで、MDを形作っていった。これが当たって新しいマルイ像ができ上がった。

 丸井は有楽町店の手応えを成功体験に、その後の京都出店、さらに来春の博多店オープンでも、お客の声を参考にするという手法を踏襲したのである。

 マルイ博多は丸井の政令都市展開という戦略から、2013年10月に進出が決定された。

 天神にはすでに3つの百貨店がひしめきあう。博多駅前でも博多阪急が定位置を確保した。マルイ博多は言うなれば、地域5番店ということだ。それでも、九州の玄関口、アジアからのインバウンドは、よほど魅力に映ったようである。

 丸井は有楽町店での手応えと自信を胸に、14年5月、丸井は福岡市に開店のための事務所を開設。8月からは「店づくりに関する企画会議」をスタートさせた。地元に住むお客から参加者を募り、店づくり対する忌憚ない意見を集める場を設けたのである。

 その場所が博多区の奈良屋町だ。折しも始まった博多山笠の区割りでは、土井流れのエリアにあたるランドマークである。先遣隊のスタッフは開所早々、周囲のオフィスや店舗がこぞって舁き山に勢い水をかける姿には、圧倒されたのではないだろうか。

 一方、丸井はネット上でも「コミュニティサイト」を開設し、地域との情報共有を図るなど、地元密着の意気込みを示している。

 筆者は長らくファッション業界で仕事をしてきているが、マルイ以外に開店準備でお客の声を聞こうとした百貨店は思い当たらない。

 岩田屋がZサイド開業に際しては、何人もの社員をNYでのリサーチに派遣した話は聞いたが、でき上がった店舗はブルーミングテールズにも、サックスにも、はてはバーニーズにも似ても荷つかないアパレルどっぷりのMDだった。

 経営者は堂々と「商品の買取」まで公言しときながら、メーカーへの配慮からセール時期は他店と同じという中途半端な政策が禍して、破綻、私的整理ガイドラインの受入れ、中牟田一族の経営退任という憂き目にあってしまったほどである。

 福岡三越に至っては、本店で起こった岡田茂事件の影響は薄れていたものの、出入り業者にカード会員獲得や内覧会のアテンドまでさせる始末。スキャンダル事件は何の反省、学習にはつながらず、越後屋商売という土壌は脈々の受け継がれていると感じた。

 こうした既存百貨店と対峙する丸井は、5月には建設中の店舗から目と鼻の先の博多駅前に開設準備室を開設している。オープン準備は佳境に入ったということだ。

 おそらく、これまで数千名のお客から意見を収集したであろうから、それをもとにしてリーシングするテナントとの最終交渉の段階に入っていると思われる。

 これから内装工事に入り、少しずつかたちがハッキリしていくだろうが、何せ福岡、九州ではほとんど知名度のない百貨店である。反面、これまでの百貨店進出が期待はずれだったお客にとっては、新鮮な気持ちで迎えられる。

 丸井側も博多、福岡といったコアとなるお客の気質は、まだまだわかりかねているのではないか。価格に対しては大阪ほどシブチンではないが、デフレ禍の影響でコストパフォーマンスの良い商品が求められるのは全国的な傾向である。

 ファッションに限って言えば、 ワールドが16年3月をもって400~500店を閉店することを併せて考えると、もうSPA系のブランドは必要ない。当然、お客からもそうした声は出ているはずである。

 既存の百貨店にもない、郊外SCやグローバルSPAにもない、商品が見つかるかどうかわからないが、アパレルの隅々にまで張り巡らせた情報網を駆使して、バイヤーが探し出してくれることを期待したい。

 また、お客の半分は東京発である丸井の若々しい感性で、セレクトしたアイテムに期待感を寄せていると思う。「福岡だから少々ダサくても、ブランドを置けば売れる」と考えるような殿様商売は通用しない。丸井とてそんなことは、微塵にも感じていないと思う。

 あとは現状のファッションMDにどうソフト力を組み合わせるか。お客の意見収集はオープンすれば終わりではなくて、継続して収集されていくはず。開業後に行われる新たなイベントの仕掛けや賑わい創出などでは、それの格好の舞台になる。

 もっとも、マルイ博多は百貨店であり、小売業だ。集客イベントや各種プロモーションも大事だが、個人的にはお金を出してももらいたい袋や包装紙、各種ビジネスフォームなんかにも、ブランド浸透のカギがあるような気がする。

 また、天神で完結するファッションの中で、足りないものが一つでもマルイ博多にあるのなら、成熟した大人が足を運ぶ可能性は高い。それはステーショナリー、靴、アクセ、グッズ、そしてレアな食材とそうした食生活を演出する小物ではないか。

 チープでナチュラルなグッズは郊外店に譲るとして、大人がライフスタイルをお洒落にスタイリッシュに演出できるアイテムが百貨店ファッションの真骨頂ではないか。それには大いに期待したいし、更なるお客の声が反映されると思う。

 すでに代理店が開業キャンペーンのアカウントを得るために、営業攻勢をかけているはずだ。毎度、百貨店がオープンする時は、花屋が代理店の名前が書かれた胡蝶蘭を届ける姿を見かける。同じ光景はマルイ博多でも想像に難くない。

 ただ、成熟したお客が子飼いの制作会社やクリエーターを使ったプロモーション程度で、簡単に集客されるような時代ではない。それは丸井が何よりも知っている。

 イベントやプロモーションなんかのレベルではなく、行きたくなる店とはまず環境である。そこに一番のコストが割かれて然るべきである。

 場所柄、博多駅は早朝から深夜まで人の通行が絶えない。そうした人々が買い物はしなくても、立ち寄りたくなる店が集客のいちばんのポイントだと思われる。

 計画では売場面積は1万5,000平方メートル。これまでの百貨店の中でいちばん小ぶりだが、売れもしないようなアパレルブランドやSPAでスペースを稼ぐことも無くなり、お客の視点に立ったアプローチが可能になる。それだけ店作りしやすいということだ。

 あとは足下と広域の商圏を想定して、いかにバランスの良いMDを作りあげることができるか。マルイ世代としては期待に胸が高鳴る。
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