HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

デジタルを超えて見えてくるもの。

2015-07-29 13:12:26 | Weblog
 ギャラリードポップというメーカーがある。筆者がプレスプロモーションの仕事をし始めた頃は、ポップインターナショナルという社名だった。本社は目下、国立競技場建設の渦中にあるエリア、千駄ヶ谷だったと記憶している。

 筆者が大学生の頃、バイトしていたマンションアパレルも千駄ヶ谷にあった。原宿から近いこともあり、ビギグループがあった代官山と並んで、居を構えるDCアパレルは少なくなかった。

 当時、このポップインターナショナルが作っていたのが、カジュアルの「プードゥドゥ」と、エレガンスの「ブロンドール」。90年代に入ると、急速にDCブランドが勢いを無くしていく中、後発ながらも企画に力を入れた数少ないメーカーだった。

 プードゥドゥは販売価格のケタを一つ下げ、中高生までもターゲットにした量販系ブランドになってしまったが、ブランドとしては堂々と残っているだけに、大したメーカーである。

 現在、ギャラリードポップは、プードゥドゥの他にレディスの「パドカレ」、メンズの「サージュデクレ」を持っている。

 筆者がこのメーカーに注目するのは、DCブランド世代ということもあるが、その素材使いのレベル、加工の妙がすごく秀逸なところだ。素資材のコストを下げて、原価率を圧縮するアパレルが多い中で、他社とは一線を画するもの作りには頭が下がる。

 周りを見回しても、多くの人気ブランドやセレクトが名前におぶさり、コスト増となる素資材や加工にあまり注力していない。そんな中、パドカレは組織に特徴を持つ素材から徹底して吟味し、後加工にも匠の技が光る。

 それだけに東京だけでなく、パリやニューヨークのファッション感性にもフィットするようなデザインを創り上げようと、企画では隅々まで妥協がない。言ってみれば、「インターナショナルクリエイティブ」を追求するブランドなのである。

 今から10数年前、 ギャラリードポップは、 メンズのサージュデクレをシンクロさせて、「オキュ」というセレクトショップを展開していた。

 筆者も何度か購入したことがあるが、今でも穿いているコットンのトラウザースもある。それほど、素材は確かなものを使っていたということだ。

 一方、パドカレは昨今のお客からすれば癖のある商品に映り、都市部展開では苦戦は免れなかったようだ。直営店は次第に縮小され、サージュデクレを含めて、セレクトショップ向けの卸に舵を切っている。

 ただ、創業のブードゥドゥを知り、パドカレの好む層は各地に点在する。彼女らは共通して今のSPAではデザイン的にも、素材的にも満足していない。かといっておばちゃんファッションは着たくないし、何もラグジュアリーファッションである必要もない。

 国内店舗による商圏設定ではなく、もっと世界にマーケットを広げれば、顧客の開拓は十分できるということで、パドカレは海外市場の開拓を進めている。パリやニューヨークの感性にフィットする企画力を見ても、そちらの選択の方が正しいと思う。

 現地でのコレクションを積極化し、海外のセレクトショップ向けの卸に注力。ファッションマーケット全体が縮小し、消費者の感度そのものが鈍っている日本に比べると、新陳代謝がある海外の方がポテンシャルは高いとの経営判断なのだろう。

 このパドカレがこの秋冬シーズンに向け、自社製作本の「パドカレ001」を制作した。こちらも世界マーケットを意識した「ブランドブック」という位置づけである。

 多くのメーカーがコスト削減で、販促ツールはタブロイド判のフリーペーパーくらいしか作らなくなった。ところが、パドカレ001は72ページもあって、ちゃんと背をもつムック本である。

 コムデギャルソンやヨウジヤマモトなどは、TASCHENやV&Aといった海外の出版社主導で、フォトブックを販売している。しかし、パドカレのようにいくら販促ツールとは言え、自社制作のブランドブックはここ数年、お目にかかったことはない。

 日本だと、せいぜいPenのような雑誌が「丸ごと◯◯◯」というようにブランドに1冊の誌面を買い取ってもらうようなタイアップ企画に過ぎない。そう考えると、ここまでコストをかけたブランド本は、国内ブランドでは異例と言える。

 ブランドブックの出版になると、やはり海外の方が進んでいる。とすれば、インターナショナルクリエイティブのブランドバリュウを伝える方法としては、当然の選択だったのかもしれない。

 編集内容は毎号、どこかの国をフィーチャーし、その地域のショップやそこで働くスタッフへの取材とともに、ブランドの魅力を伝えるという。1号目は、秋に路面旗艦店を出店するパリに焦点を当てたというから、力の入れようが違う。

 関係者向けに英語版と日本語版を制作したようだが、一定額以上商品を購入したお客にもプレゼントされるというから、筆者も何とか手に入れようと思っている。

 ファッション業界では、すっかりインターネットが浸透し、Webデザインが情報発信としても、あるいは仮想店舗が重要な販路を築きつつある。

 消費者の生活ではパソコンやスマートフォンを利用するのが当たり前の時代、ネット関連ツールがファッションでも主導権を握るという考えを否定するつもりはない。

 しかし、どのブランドメーカーもネットメディアをもつのが当たり前の今、フォーマットが決まっているWebデザインで、ブランド力にどこまで差を付けるか。コンサルタントを入れコストをかけて、SEOまで切り込んでレスポンス率を高めるのか。

 どちらにしても、ネットメディアが乱立してしまった環境を考えると、単なる情報発信や販売ツールとしての機能だけでは、限界が生じてくるのは否めない。

 ファッションのように触れる、羽織る、着こなす、着替えるという行為がお客に感動を与えるという点を鑑みると、至ってアナログな部分にこそ、ブランドバリュウを上げるヒントが隠れているのかもしれない。

 新品の服を手に取った時の触感や匂いと同じように、ブックにも紙の手触りやインク独特の匂いがお客の感性が刺激する。

 単に本を読むという行為だけでなく、所有して時にそれを手に取って何度も見る行為に、自分らしさを感じる読者は少なからずいるはずだ。

 それはアナログというリアルなものだからこそ、五感で直に感じられる世界だと思う。

 出版物は何も情報を得るだけのツールではない。生活の豊かさや感性の醸成など、デジタルでは決して味わえない、デジタルを超越したところで想像力をかき立ててくれるのだ。

 パドカレの商品を見ると、素材から吟味して企画しているところが如実にわかる。だから、現物の商品をショップで見て、実際に着て、そこからバリュウを感じてほしいというデザイナーサイドの強い意思が伝わって来る。

 ブランドが放つエッセンス、空気感、スタイリングという情報も、紙という媒体でのアナログ感覚だからこそ、わかる部分は往々にしてある。それがブランドバリュウを形作るということは、決して否定できないと思う。

 素材、デザイン、作り。すべてにクリエイティブな思想を絶やさないブランドだからこそ、ブランドブックはそれがわかる人々にだけにバリュウを伝えていくのだと思う。
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