HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

被災商品は売れるのか。

2016-06-08 07:21:48 | Weblog
 4月14日、16日の熊本地震から間もなく2ヵ月が過ぎようとしている。全国的な報道は、罹災証明の申請から仮設住宅への入居と、被災から復興へと変化しつつある。

 地元ファッション業界では、震災直後からすぐに営業を再開する店舗がある一方、ショッピングセンターなどの器が甚大な損害を受けて、営業再開までにまだまだ時間がかかるテナントも少なくない。

 深刻なのはイオンモール熊本(旧イオンモールクレア)とゆめタウンのはません、サンピアンの両店。イオンモールは16日の震央にほど近い嘉島町にあり、被害は甚大だ。約22万4000平方メートルに立つ2層の店舗は、直営部門の2階フロア(衣料・雑貨、アミューズメント)と西側のテナント棟が天井落下などで再開の目処がたっていない。

 テナント棟には1階に無印良品やザラ、2階にはユニクロ、スポーツオーソリティなどの大型店が入っており、店舗当たりの損失はバカにならないと思われる。もちろん、GMSが苦戦を続けるイオンにとっても、衣料品コーナーが再開できないのは遅々として進まない改革にも水を差す。泣き面に蜂とはまさにこのことだ。

 ゆめタウンはませんは全館を閉鎖。サンピアンも全館、全テナントが休業している。サンピアンからほど近い菊陽町のゆめタウン光の森は、4月28日にいち早く再開。両店に代わって顧客の受け皿になっているようで、平日でも休日と遜色ない集客がある。

 もっとも、はません、サンピアンの両店がニコニコドーの経営破綻に伴い、イズミに譲渡された居抜き店舗なのに対し、光の森はイズミが独自で開発したフォーマットだ。施設は本館が4階建、南館が3階建の多層構造で、本館は3階以上、南館は1階が駐車場で、建築基準でもそれなりの地震対策は取られていたと思う。

 今回の地震は余震、本震とも夜間に発生し、人的な被害はなかったようだ。しかし、ここでも天井や柱の一部に落下や亀裂が生じており、その部分を応急処置した上での営業再開となっている。

 店舗中央の吹き抜け、エスカレーターを囲む2階部分の柱は、6月に入ってもシートで覆われたままで亀裂や破損が生じた箇所はわからない。もし週末の営業中に地震が発生し、階上の駐車場が満杯だったらどうなっただろうか。おそらく1500台以上の過重が2階部分に一気にかかるわけで、想像を絶する被害になったかもしれない。

 イズミ本社では、はませんとサンピアン両店について11月を目処に営業再開したいと発表した。だが、今回の地震でスーパー各店は天井に設置した防煙壁のガラス板が割れて落下したり、スプリンクラーが破損して流れ出した大量の水で売場が冠水したことが、長期休業を余儀なくされた要因と言われている。

 SCとは店舗の規模が違うので、一律で耐震基準を論じることはできないが、イオンやイズミはスーパー以上に営業再開に向けた耐震補強には破格の投資が必要であり、それらを含めて本年度業績における減損は、相当になると覚悟しなければならないだろう。

 テナント各社についても損害は程度の差こそあれ、半年以上も休業すれば売上げの減少はかなりにおよぶはずだ。イオンモールの場合はほどんどが全国展開のテナントで、全社的な損失率は分母が大きい分(店舗数が多い)だけ低くなる。スタッフについても緊急避難的に近隣店舗に異動させ、シフトを調整して業務に従事させられるし、店長は転勤や部署の配置転換ができなくはない。各社の人事はすでに対応していると思われる。

 ところが、規模が大きくないチェーンやFC店にとって休業は、1店舗でも堪えるはずだ。売上げ減少はもちろん、固定客が減っていく可能性もある。それでもなくてもECが急激伸びていることを考えると、長期休業は実店舗の存在価値をますます薄れさせる。

 なおさら、スタッフは雇用の確保もままならない。おそらく自宅待機を命じられているはずで、社員ならハローワークで失業給付の申請をする時期ではないだろうか。営業再開の目処が立ったにしても、再投資が厳しければ閉店、撤退になる可能性は高い。スタッフは転職せざるをえないことになる。

 過去20年間、5年周期で都市部を地震が襲っている。この間、有店舗から無店舗販売、さらにオムニチャンネルと、販売スタイルが大きく変わった。そんな中で、各店舗は震災リスクとどう対峙して来たのか。ハード面は耐震基準にそってデベロッパーなどに整備してもらえる。でも、店頭における震災対策になると、そうそう野暮ったい器具を取り付けられるはずもない。

 一旦被災すると店舗の営業再開までにはタイムラグがあるわけで、今回のように器であるSCが長期休業に追い込まれると、いかんともしがたい。そうした有事に際して、ソフト面でどう対応していくか。

 テナント出店している場合に店舗に立ち入れず、商品を持ち出せない時はどうするのか。仮に持ち出せても什器転倒によるキズ、天井の落下による汚れが生じているとどうするか。仕入れた在庫はどう処理するのか。SCのような器が閉館した場合、どこかで営業を続けることはできないか等々。デベロッパーとの出店契約の中に規定されている部分もあるだろうが、商品の所有権はあくまで店側にあるのだから、考えておかなければならないことはたくさんある。

 念のために説明しておけば、一般住宅が地震保険に加入していれば、衣服がハンガーごと床に倒れたとか、衣服にコップの水が少しかかったなどの場合、見た目にはほとんど損害が無くても保険金は支払われる(被害程度で区分はあるが)。店舗の場合は地震保険の対象にはならないが、保険の観点からすれば商品が地震でちょっと埃を被ったり、ハンガーからフロアに落下しても、「災害による損失」と解釈できるのである。つまり、被災商品となるのだ。

 一方で、これだけユーズド市場が確立していることを考えると、商品に多少の「瑕疵」が生じても、商品自体にブランド価値があったり、販売するショップにロイヤリティがあれば、お客にとって購入は吝かではないと思う。

 震災が発生する度に、「ご当地の商材を購入して支援してほしい」とのキャンペーンが持ち上がる。確かに食材などではそれが可能だ。衣料品については本社や経営者の判断に委ねられると思うが、被災したB級の衣料品の後処理をどうするかについても、業界全体で議論してもいいのではないか。

 1996年の阪神大震災時には、被災したブランド店の商品を目当てに火事場泥棒が横行し、自警団が結成されたという報道があった。そうした状況を考えると、合法だろうが非合法だろうが、ブランド価値があるものは瑕疵が生じても売れるし、買いたい。これがマーケットの共通認識とみて間違いない。だからこそ、被災した商品を買ってもらうことで、被災地の店舗を応援するということにもつながるはずである。

 今回、被災した鶴屋百貨店は、2~6階を占める衣料品フロアの再開に1ヵ月以上を擁している。報道には、「古い建物で増築してきており、つなぎ目部分の壁が剥がれたり、天井が崩落したり。エレベーター塔も被災し使用不能で、補修や点検に時間がかかった」とあった。

 ただ、肝心な商品の状態については、全く公表されていない。百貨店だから商品は買い取っておらず、売場に並んでいる時点ではメーカーや問屋の所有である。また、被災した商品を仕分けし棚卸しを行わないと、損害額を算定することはできない。だから、詳細は公表できないとの理屈も成り立つ。

 しかし、信用を大事にする百貨店が被災した商品を全てチェックし、見た目に瑕疵がないからといって営業再開後にそのまま販売するだろうか。クレームなど万一のリスクも考えるはずである。被災した、被災していない商品を声高に叫ぶことなく、メーカーにこっそり引き取らせるのは容易に想像できることだ。

 今回のケースでは地震発生が4月半ばだから、売場に並ぶ商品の大半は春物である。現在は6月なので通常ならほとんど夏物に切り替わる。長期休業したことで、逆に商品の入れ替えには好都合だったということもできる。

 だから、営業再開に時間がかかったのは、こうした問題でメーカー各社との調整に手間取ったと考えられなくもない。それが結果的には時間稼ぎになったわけだが。メーカーにすればそうした商品をファミリーセールで販売したり、まさにアウトレットで現金化するなどの後処理は、当然のこととして考えるだろう。

 しかし、その時点まで来ると、お客は被災した商品とはわからない。ならば、1ヵ月以上の休業期間に何らかの対応をしてもよかったのではないかと思う。これはビルインで被災したテナントの方が切実に考えなければならない問題である。

 余談だが、今回の地震で被災したあるディスカウントストアでは、棚や什器から落下したり転倒したりで一部が損傷した商品を「半額」で販売していた。これがよく売れていたから、やはりお客は価格には敏感ということである。

 業界系メディアには、「新品と古着、消える境目」「2次流通の可能性とは」なんて見出しが踊っている。古着に対するネガティブな考えが変化し、堂々とマーケットができ上がっていることを暗示させる。穿った言い方をすれば、多少の汚れ、キズ、煙草の臭い、体臭があろうと、売る側はノークレーム、ノーリターンを堂々と掲げて販売し、買う側は自分の好きなアイテム、ブランドなら気にしないことが常識化したとも言えるだろう。

 それについては「若者の認識だから可能」という意見もあるだろう。しかし、被災地を支援する気持ちは大人も変わりない。多少の瑕疵があっても、着ることに十分足りるなら、購入は吝かではないはずである。大事なことは、被災した商品をいかに現金化して、キャッシュフローを増やし、復興への道筋をつけることではないのか。

 現在ではアウトレット用に製造した有名ブランドがあからさまに流通している。プロパー店に並ぶ商品の中には被災したと言っても、真性のレアブランドもあるだろう。震災が起きなければ堂々と正価で売られていた商品である。震災が頻繁に発生していることを考えると、古着云々だけでなく、こうした商品をどう処理していくかについて、業界での議論があってもいいのではないかと思う。
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